“覇気”を代名詞に、15年間カープでプレーした安部友裕。25年ぶりのリーグ優勝、さらに球団史上初の3連覇に大きく貢献し、2022年限りで現役を引退した。

 安部氏が現役時代を語る本連載。今回は、現役最終年となった2021年、引退を決断した理由、そして安部氏のこれからについてを語ってもらった。

自身の15年間の野球人生を振り返る安部友裕氏

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◆幸せで、悔いのない15年間の野球人生

 2021年は僕にとって、最後の一軍出場のシーズンとなり、現役ラストイヤーとなる2022年シーズンを迎えました。

 正直に言うともちろん一軍にも上がりたい気持ちもありましたし、初めて規定打席に到達して3割を打つことができた2017年よりも格段にバッティング状態は良かったと自身では感じていました。

現役最終年は二軍でのプレーが続きました。引退を意識するようになったのはシーズンの夏場頃でした。この時期はチームとして1番大事な時期になりますが、バッティングの状態も良いと感じていたタイミングで一軍への昇格ができなかった時が、僕自身の中で少し気持ちが動いた瞬間であったのかなと感じています。

 ただ、当時の境遇で思ったことは、どんな状況でも楽しむ、後輩の模範になる雰囲気づくりをするということでした。

 そんな時、二軍でもがきながらも一軍昇格が決まった後輩の姿を見ていると、僕は素直に“うれしい”気持ちが沸いてきました。昔なら悔しいと思っていましたが、その時は心から後輩を応援している自分がいることに気づきました。僕はこの感情は、プロの世界ではあってはならないことだと思っていて、その時に初めて『ここが辞め時なのかな』と思いました。

 シーズンオフには周りからの後押しもあり、トライアウトを受けましたが、本当に僕にとって良いタイミングだったんだと思います。僕自身、現役に対しては全く悔いはありませんでした。それは、良い時も、悪い時も、悔いの残らない取り組みをしていたからだと胸を張って言えます。

 昨年の11月に現役引退を発表し、早いもので半年が経ちました。そのなかで僕が感じたことは、「一人では何もできない」ということです。現役を引退してすぐは、「ある程度一人でもやっていけるだろう」と思っていたのですが、大きな間違いでしたね(苦笑)。現在はたくさんの方から勉強させてもらい、いろいろなことを吸収することがとても楽しいです。新しい発見や思いついたことはすぐにメモを開いて、“野球ノート”ならぬ、“ビジネスノート”に記しています。そして15年間僕がカープで学んだことは、何一つ無駄なことはないと自負しています。

 僕のプロ野球人生を振り返ると、幸せで、いろいろなことがあった15年間でした。「安部、遠回りしたな」とみなさんに言われるかもしれませんが、これが僕の最短距離だったのだと思います。さまざまな経験をし、ここに辿り着き、本当に近道はないと思いました。たくさんの失敗もして、これからもたくさん失敗をすると思いますが、“失敗”と思うのか、“勉強”と思えるのか、それは自分の捉え方次第だと思います。いままで僕が若い頃辿ってきた、ネガティブな考え方ではなく、「俺のところに飛んでこい! 俺に任せろ!」と思える、ポジティブなビジネスマンになろうと思います。

 そして、いまの子どもたちに伝えたいことは、僕は失敗を恐れることの多い野球人生でした。それは今考えると本当にもったいないことだと思います。言葉で言うのは簡単だと思うかもしれませんが、これは僕の実体験ですので、僕が伝えられることだと思っています。

 僕はこれからも大好きな野球とずっとつながっていきたいです。そして“伝道師”としていろんなことを伝え導いてあげる、そんな存在になりたいと思っています。

 最後にこれまで僕を応援してくださったファンのみなさん。ここまで本当にありがとうございました。幸せな野球人生でした。そしてこれからも末長くよろしくお願いします。

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