いよいよシーズンも残りわずか。2位と僅差で首位に立つサンフレッチェ広島は、新スタジアム元年の優勝に向けた負けられない試合が続く。ここではOB・吉田安孝氏が、優勝争いを制するためのキーマンをピックアップして解説する。(取材は2024年10月上旬)

ACL2アウェイ東方戦ではスタメン出場。Eピースで行われたシドニーFC戦ではサブ入りを果たした。

 10月6日の磐田戦を終えた時点で、広島は神戸と勝点1差の首位。負けられない試合が続くなか、今回は特に注目したい2選手についてお話ししていこうと思います。

 まずは守りの要、町田との首位決戦でもビッグセーブを連発したGK・大迫敬介です。

 日本では 「いかに点を取るか」という部分に注目が集まりがちですが、ゴールマウスを守り切るGKの存在も見逃せません。特に欧州では、サッカーを始めた子どもが一番最初に憧れる花形のポジションはGKだとも言われています。日本においても、もっとGKの魅力を伝えていくことができれば、Jリーグ全体ももっと面白くなり、レベルも上がっていくのではないかと感じます。広島のチームとしての完成度が高まっている理由の一つに、「ゴールに大迫が構えていること」があるのは間違いないでしょう。

 もう一人の注目選手は、ACL2グループステージ2戦目でゴールを挙げた松本大弥です。

 今シーズンは故障の影響もありなかなか出場機会を得ることができていませんでしたが、東方戦では先発出場。前半40分に、無回転の素晴らしいシュートを決めました。松本は広島ユースの出身で2019年にトップに昇格しましたが、とにかく練習量が豊富で、いつも居残りでトレーニングしていたことを覚えています。遠目からのフリーキックも、当時から松本が取り組んでいた練習の一つです。ACL2では限られたチャンスのなかでしっかりと結果を残し、体の強さもアピールできました。長く松本の姿を見てきた側としても、そうした積み重ねが国際試合の舞台で結実し、勝利を引き寄せたことは非常にうれしく思います。松本はトップ昇格した後も、なかなか広島で出場機会をつかむことができず、大宮や金沢を渡り歩いて武者修行を続けたという苦労人の一面も持ち合わせています。

 広島のボランチはチーム内でもライバルの多いポジションですから、チャンスをつかみ取るのは容易なことではないでしょう。ただ、体が大きく、パワーがあり、積み重ねてきたトレーニングが基礎としてあります。そんな松本がボランチを務めれば、相手選手からしても脅威になるはずです。ACL2のゴールを自信にして、ここからさらに自分の良さをアピールしていけるかに注目したいと思います。

 才能ある選手が複数のポジションで力を発揮することができるのも、今の広島の大きな武器の一つです。選手交代を見ていても、ただ 「選手が入れ替わる」だけでなく、選手が入れ替わることでピッチ上のポジションにも変化をもたらしています。相手からすれば、システムそのものが変わったような印象すら受けるでしょう。そうした変幻自在の戦いができることも、広島全体のレベルの高さの証明ではないかと感じています。