オリックス・ブルーウェーブ(現オリックス・バファローズ)、MLBワシントン・ナショナルズのトレーナーを務め、メジャー時代は「マック(高島の愛称)はゴッドハンドを持っている」と高い評価を得たトレーナー・高島誠。この連載では、数々のプロ野球選手を指導してきた経験をもとに、これまで公では語られることのなかった、マック流・野球パフォーマンスアップの秘密を披露していく。

打って守って走れる、鈴木誠也が持つ日本屈指の身体能力

 野球専門のトレーニングジム「Mac’s Trainer Room」代表の高島誠です。『Mac高島の超野球塾』の連載をご覧いただき、ありがとうございます。

 前回のコラムでは、カープのエース・大瀬良大地投手の魅力を取り上げました。今回は、カープの4番であり、日本の4番打者でもある鈴木誠也選手を取り上げてみたいと思います。プロ野球開幕から約1カ月経ちましたが、鈴木誠也選手は打率.354、8本塁打、23打点(7月22日時点)の成績。4番打者としてチームを引っ張っていますし三冠王を期待できますし、昨年25盗塁したことを考えるとトリプルスリーも同時に狙える選手といっても異論はないでしょう。

 今回は、鈴木誠也選手のフィジカルから、いかに高いポテンシャルを秘めたプロ野球選手であるかを紹介していきます。2020年シーズン、公式で出ている鈴木誠也選手の身長は181cm・体重は98kg。ここで注目してもらいたいのは『体重』です。

 じつは98kgは、日本プロ野球では重たい部類に入ります。公式データをもとに、12球団で、体重98kg以上で何年もレギュラーとして活躍している日本人選手を挙げてみます。

 ロッテ・井上晴哉選手(114kg)、日本ハム・中田翔選手(107kg)、西武・山川穂高選手(103kg)、西武・中村剛也選手(102kg)、阪神・糸井嘉男選手(99kg)

 チームの主力として活躍している選手に絞ると、98kg以上の選手は、わずか5人しかいません。いずれも体が大きいパワーヒッタータイプの打者が並んでいます。ただ、糸井選手を除くと、走塁を得意にしているイメージはありません。99kgの糸井選手でも、近年は、年齢と故障の影響で、全盛期のような走攻守そろったプレーは影を潜めています。

 一方で鈴木誠也選手は、打撃を得意にしながら、走れて守れて肩も強い。12球団の日本人選手で、トップクラスの体重でありながら三拍子がそろった選手。ここに鈴木誠也選手のすごさがあります。

 ちなみに、2年連続でトリプル3を達成しているヤクルトの山田哲人選手は180cm。76kg。日本を代表するセカンド・菊池涼介選手は171cm・72kgといったように、日本で、三拍子そろっていると言われている選手は、あまり体重を増やさない傾向にあります。それはおそらく、体を大きくして筋肉が増えると、本来の瞬発力(スピード)が失われると考えているからでしょう。

 日本ではその考えが主流ですが、メジャーリーグは違います。メジャーで、打って守って走れる三拍子そろった選手はほとんど体が大きいですし、そういった選手が高く評価されています。今のメジャーはパワーとパワーの勝負。ダルビッシュ有選手もメジャーに行ってから体をかなり大きくしました。ただ一つ忘れてはいけないのは、単純に体を大きくするだけではダメだということ。筋肉量を増やし体を大きくしたうえで、スピードを高める瞬発系のトレーニングをこなすことも絶対に必要です。メジャーで活躍できる選手は“力とスピード”、どちらをも兼ね備えていますし、そのためのトレーニングもしっかりとこなしています。メジャー球団から評価を受けるとなると、“走れるかどうか”も非常に大事なポイントなのです。

 走塁や守備も一級品でありながら、プロに入って年々大きくなる鈴木誠也選手の体を見ると、メジャーでの戦いを意識しているように感じてなりません。いま、日本球界を見渡しても、長打が打てて、守って走れる選手を考えると、鈴木誠也選手、そしてソフトバンクの柳田悠岐選手(188cm・96kg)くらいではないでしょうか。