守護神は1人じゃなくてもよい!?

 救援投手を『守護神』と称するようになった歴史は意外と古く、まだセーブ数が公式記録に導入される前の1960年代には既に稲尾、秋山登(大洋)、土橋正幸(東映)らが『守護神』と呼ばれていた。しかしこの時代は、まだ現在のような先発と救援の役割分担はなく、良い投手であればどの場面でも登板するという状況であったため、今現在の『守護神』とは多少ニュアンスが異なるかも知れない。

 1974年から救援投手を評価する記録としてセーブが、またセーブと救援勝利を合わせたセーブポイントが記録に導入されるようになると、先発と救援の分業は進んでいった。しかし1990年代半ば頃までは、いわゆる『イニングまたぎ』で登板する救援投手が当たり前であった。カープで最優秀救援投手(セーブポイント数)のタイトルを獲得した選手を見ても、例えば1979年の江夏豊(31SP)は平均1.9投球回、1989年の津田恒実(40SP)は平均1.6投球回となっている。

 現在では、セーブ機会に登板する救援投手は9回1イニング限定であることがほとんどだ。そのぶん、3点以内のリードを守って試合を終わらせなければならないという重圧も大きいだろうし、ファンの『守護神』への期待も高まる。近年のカープでは、永川勝浩(現二軍投手コーチ)、中﨑翔太らがその重責を担ってきた。

 今シーズンのカープは、30試合を戦った(7月27日時点)うち、9回に点を入れられて敗戦、もしくは同点になったまま引き分けという試合が6試合あった。それは言い換えれば、守護神が守護神としての役割を果たせなかった6試合でもある。佐々岡監督は、「クローザーと決めず、いろいろ打順とかを見ながらやっていこうと思っている」(デイリースポーツ・2020年7月23日)と、『日替わり守護神』の方針を明らかにした。

 『この投手が出てきたら絶対抑えてくれる』という絶対的守護神の存在は、ファンにとっては頼もしいものでもある。しかし、さまざまな神様がいるように、複数の守護神がいるというのもありなのかも知れない。8月以降、どのような守護神が現れてくるのか楽しみに(たまに胃薬を片手にしながら)カープの勝利を祈りたいと思う。

これまでもカープには数多くの“神”が在籍していた

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オギリマサホ
1976年東京都出身。イラストレーターとして雑誌や書籍等の挿絵を手掛けるかたわら、2018年より文春オンライン「文春野球コラム」でカープ担当となり独自の視点のイラストコラムを発表。著書に『斜め下からカープ論』(文春文庫)がある。