2023年に兄である新井貴浩監督就任と同時にカープ二軍打撃コーチに就任した新井良太氏。2年間、大きな可能性を秘めた若鯉を相手に、日々二軍で全力で指導を行ってきた。そして、昨季一軍シーズン最終戦。スタメンには手塩に掛ける若手がスタメンい名を連ねた。ここでは、昨季オフに聞いた新井二軍打撃コーチの指導論をお送りする。(全3回/2回目/2024年12月取材)

取材に応じる、カープ・新井良太二軍打撃コーチ。

◆今の時代だからこそ 『質より量』を大事にしたい

─昨シーズン最終戦で新井監督から『変化』というキーワードがありました。新井コーチとしては、監督の発言をどのように受け止めましたか?

「まず、チームとして締まりますよね。間違いなく選手には響いていると思いますし、僕らコーチ陣に対してのメッセージでもあると思っています。『来たな』と言いますか、そうでなければいけないよなという思いはありますね」

─昨シーズンの悔しさを選手・スタッフ含めて全員で、ということですね。

「その悔しさもありますし、痛みも伴っていかないといけないってことですよね。選手たちはすごく繊細なので、響いてると思います。この言葉は中堅以降、特にベテランの選手たちにも響いていると思いますし、オフのモチベーションにもなると思います。中堅以降の選手に対して、責任感や危機感、使命感でやる気を促すということもやはり大切だと思います。そういう意味でも監督のあの発言はチームに良い意味で変化をもたらす言葉になっているはずですし、スパイスになると思っています」

─秋季キャンプは例年以上の厳しさが話題となりましたが、雰囲気はいかがでしたか?

「僕が見ていた感じでは、監督は少し選手と距離を置いているように見えました。 僕たちはもちろん選手のお尻を叩き、厳しい練習をするというスタンスは変わりませんでした。あとは、“質より量”ですね。これから一軍でレギュラーをつかもうという選手たちは、“量”をやらなければ、コツもつかめなければ光も見えないわけです。僕はいつも『映像だけ見てもうまくならない。うまくなった気でいるだけだ』とよく言っています。今は技術が発達して映像もある、トラックマンもあったりと、様々なことが目に見えるようになってきてはいますが、このご時世だからこそ“量”も大切ではないかと。振った者にしか分からないという体験を、おそらく監督も感じてほしかったんだと思いますし、僕も若手選手に感じてほしかったですね」

─新井コーチ自身、中日在籍時の若手時代に猛練習を経験されています。

「そうですね……笑いも出ない、声も出ない。虫の息でした(苦笑)。たぶん簡単には壊れないんです。人間は、やばいと思った3倍先に限界があると思っています。やばいと思っているうちは、やばくないんですよね」

─限界の先ということですね。

「壊れるまでやれというわけではないですが、そのぐらい追い込まなきゃいけないという、そういう意味を伝えるキャンプにもなったと思います」

─指導する立場としても、ある意味原点回帰という面もあったのでしょうか。

「なんて言うんですかね……僕自身もそうですが、2024年シーズンの悔しさが、“喉元過ぎれば熱さを忘れる”では、絶対にダメだと思うんです。人間は忘れる動物なので、日が経てば経つほど風化して薄れていくじゃないですか。悔しさを毎日自問自答して、それをエネルギーに変えながら、選手に伝えていました。だから選手たちにも『チャンスをもらって、そこで打っていれば、今ここに自分はいないわけだし、それを招いたのも自分だぞ』と僕自身にも言い聞かせながら、これを絶対に忘れちゃいけないと思いながら伝えていましたね」

(3回目につづく)

新井良太(あらい・りょうた)
1983年8月16日生、広島県出身
選手経歴広陵高-駒沢大-中日(1999 〜2004)-阪神(2005〜 2010)
コーチ歴/阪神(2017-2022)-広島(2023 〜)
広陵高から駒澤大に進学し、2005年に大学生、社会人ドラフト4巡 目で中日に入団。2010年にトレードで阪神に移籍すると、実兄の新井貴浩監督とともにプレーした。2017年限りで現役を引退し、阪神の二軍育成コーチに就任。2020年には一軍打撃コーチを務めた。2023年に兄・新井カープの二軍打撃コーチに就任。