◆持ち味の直球でキャリアハイの数字を更新

 課題と向き合い続ける中で光が見え始めたのが、プロ5年目の昨シーズンだった。この年7月3日に中継ぎとして約2年半ぶりの登板を果たすと、3試合続けて無失点を記録。当時一軍昇格直前に語った言葉からは、地に足をつけて自らの投球と向き合う姿勢が見受けられた。

「一軍の投手を見ていると、コーナーワークだったり、すごい変化球を持っていて今までの自分もそこを追い求めがちだったんです。今は自分を客観的に見て、そういうことがすぐにできる投手ではないということは分かっています。しっかり自分ができることを見失わないようにして、一個ずつ課題をつぶしていくしかないと思っています。今は結果が出たから良かったではなく、自分ができるようになりたいことをどれだけできているのかという点に意識を置いています」

 そして迎えた今季。これまでの停滞が嘘のように、春先から見違えるような球を投げ込み成長の証を見せ続けている。

「これまではどうしても周囲の投手の存在を気にしすぎていたと思います。特に自分と同じような位置にいる若手選手ですね。以前は自分の周囲の選手と比べてどうだとか、もっと言えば一軍の勝ちパターンの投手と比べて自分がどれくらいの力量の差があるのかとか、そういうことを考えながらやっていました。そこで一回、自分のことに集中してみようと思ったのが今年のキャンプですね」

 コロナ禍で思うような調整が進められないながらも塹江は好調をキープし、プロ6年目で初の開幕一軍入りを果たした。開幕からの8試合連続無失点で首脳陣の信頼を勝ち取ると、現在は勝ちパターンのリリーフ陣の一角として持ち味を十二分に発揮している。

 プロ入り4カ月後のインタビューで、塹江は自身の長所についてこのようなコメントを残した。

「僕の長所は直球で空振りが取れるところだと思います。今は自分の長所が何かを見失わないように試合に臨んでいます」

 自分の最大の持ち味は何なのか? それを思い出した塹江は、思い切り左腕を振り抜くことでキャリアハイの数字を更新し続けている。