◆重厚感を感じる森下の投球術

 ゲームメーカー任天堂は『ファミリーコンピューター』、『Wii』、『3DS』、『Switch』と時代の先駆的ゲーム機を発売し、そのターゲット層を女性、家族、高齢者と広げていった。その競争のない市場開拓はブルー・オーシャン戦略と呼ばれた。

 それまで任天堂が積み上げてきたタテのコンテンツ力とヨコのターゲット層の強みに、SNSの発達やコロナ自粛などの時流により奥行きが加わったことが、『あつまれ どうぶつの森』の大ヒットにつながったと考えられる。

 商品戦略は時間軸(タイミング)が加わることでより重厚感が増していく。

 森下の投球戦略もまた、タイミングの奥行きを強みにしている。その投球はストライクゾーンが3次元空間であることをあらためて認識させてくれるのだ。

 真上から投げ下ろす150kmのストレートとタテのカーブで上下のゾーンを使い、ストレートとカットボールで内外角のヨコのゾーンを使う。強気の内角球がその幅をより広げる。さらにチェンジアップやカーブの落としどころによって、前後の奥行きを出しているのだ。これにより、打者は打撃の肝となる「タイミング」を逸することになる。

 スピードボールを投げ、完投できる「体」、一流打者に臆することなく内角をつける「心」、変化球の制球力の「技」が生み出す3次元の投球術が森下の武器なのではないかと感じる。