◆若手がもたらすカープのイノベーション

 カエルを熱湯の中に入れると驚いて飛び出るが、徐々に温度を上げていくと、気づかず茹で上がってしまう。これを『ゆでガエル理論』という。

 3連覇後のカープの課題の一つは、環境変化に気づくことなのではないか。巨人はこれまでの積極的なFA・トレードに加え、カープの長所でもあった発掘と育成を取り入れチームを進化させようとしている。言い方を換えれば、カープのつくり上げた3連覇の野球はすでに破壊的イノベーションの脅威にさらされてしまっているということだ。

 さらに言えば、成功体験はなかなか忘れることができないため、分かっていてもなかなか変えられない、いわゆる『イノベーションジレンマ』が生じているのだ。

 イノベーションジレンマを打開するための処方箋の一つは新戦力だ。新人が頑張ることで先輩としての自覚が芽生える選手、負けられないと競争意欲が高まる同世代の選手もいるだろう。

 高卒3年目ながらも開幕から先発ローテーションとして投げ続ける遠藤淳志の奮闘ぶりも、森下の活躍が無関係とは言い切れないだろう。『デジタルネイティブ』といわれるZ世代の彼らが見せる、合理性を超えたチームへの献身性がカープに新たなゆらぎを生み出しつつある。

 かつて佐々岡真司、前田健太が背負ったエースナンバー18を背負うルーキー森下の1勝は、チームメンバーに刺激と相乗効果(シナジー)をもたらし、カープ野球のイノベーションのきっかけになっていくのではないだろうか。

 力が拮抗したプロ野球では、こうした小さなさざ波がやがて勝敗の大きなうねりへと変わっていくのだ。後半戦、カープの若手が生み出すビッグ・ウェーブをパドリングしながら楽しみに待っておきたい。

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高柿 健(たかがき けん)
広島県出身の高校野球研究者。城西大経営学部准教授(経営学博士)。星槎大教員免許科目「野球」講師。東京大医学部「鉄門」野球部戦略アドバイザー。中小企業診断士、キャリアコンサルタント。広島商高在籍時に甲子園優勝を経験(1988年)、3年時は主将。高校野球の指導者を20年務めた。広島県立総合技術高コーチでセンバツ大会出場(2011年)。三村敏之監督と「コーチ学」について研究した。広島商と広陵の100年にわたるライバル関係を比較論述した黒澤賞論文(日本経営管理協会)で「協会賞」を受賞(2013年)。雑誌「ベースボールクリニック」ベースボールマガジン社で『勝者のインテリジェンス-ジャイアントキリングを可能にする野球の論理学―』を連載中。