あくまで、相手が優先なのである。だからこそ、投手の投げやすい座り方、ミットの位置などは指導者にアドバイスを求めながら、改善を重ねてきた。『根っからのキャッチャー』。キャリア30年のベテラン指導者も認める適性は、プロ野球の世界に飛び込んでも変わらなかった。

 春季キャンプで石原貴は、本来のキャッチングのスタイルを崩してしまった時期があった。球を体の近くまで引きつけて、捕球する。そうすれば、体をコンパクトに回転させてスピーディーな送球が可能になる。手を前に伸ばすのでなく、体の近くで球を受けるのが、大学4年間で培ってきた技術だった。

 しかしプロに入って、いつの間にか手を前に伸ばして自分から捕りにいくようなキャッチングになってしまっていたのである。

 「捕ることを優先しすぎて、しっかり受けようと思うあまり、前の位置で捕るようになってしまっていました」

 しっかり受けたい。乾いたミットの音を立てたい。なぜならば、練習の段階から投手の信頼を手にしたかったからである。

 『捕ることがあってこその投手とのコンビ』

 この考えは変わらないが、盗塁阻止とスローイングとの最大公約数を探ることも捕手のミッションなのである。難しい課題ではあるが、決して応用問題ではない。答えは基礎の積み重ねの中にあることは知っている。

 「全ての基本のプレーにこだわっていきたいです。送球の足の運びでは、足を真っすぐ踏み出してステップすること、スローイングでは球を前でリリースするような感覚、ブロッキングの足の運び……これらも無意識でできるように、体にしみ込ませたいです。やはりプロの世界は、練習の密度も動きのキレも違うものがあります」