初めて経験するプロ野球選手としての1年を、新人選手はどんな思いで過ごしてきたかのだろうか。カープを支える主力選手のルーキー時代を振り返る本企画。今回は、ショートのレギュラーとして活躍し、連続フルイニング出場635試合、歴代6位の記録を持つ田中広輔を取り上げる。プロ1年目の2014年のペナントレース開幕前、ルーキーだった田中はどのような思いで時間を過ごしていたか、当時の独占インタビューをもとに振り返っていく。

2013年ドラフト3位でカープに入団した田中広輔選手。1年目から開幕一軍入りを果たすと、打率.292、9本塁打、34打点、10盗塁を記録し、即戦力野手として期待に応えた。

◆“試合勘”は、大事にしてやってきている部分です

 東海大相模高、東海大、JR東日本。野球界のエリート街道を歩み、カープに入団した田中広輔。ドラフト3位ながら、その類い稀な打撃センスと、堅実かつアグレッシブな守備力で、春季キャンプからコンスタントに結果を残し続け、開幕一軍入りが確実視されていた。

「期待は全然感じていないんです。普通だったら、手応えもあるし結果は出ているので、ある程度、そう感じる部分っていうのはあると思うんですけど、なんかそういう感じもないですし、僕自身どこでどう使ってもらえるのかまったく分からないので」

 本職はショート。当時ショートにはベテランの梵英心、セカンドには同学年の菊池涼介が構えていたこともあり、田中はオープン戦では、ショート、セカンド、サードをこなしユーティリティー性をアピールしていた。

「試合に出られればどこでも良いですし、それが強みになるというのはあると思います。ただ、やっぱりショートにこだわっていきたいという思いもあります」

 プロ2年目の2015年以降はショートのレギュラーとして活躍する田中だが、ルーキーイヤーはチーム状況もあり、ショートに加えサードとしても出場。ほぼフルシーズン、一軍に帯同した。

「守備だと、やっぱりプロは打球が速い打者が多いので、それに遅れないようにすることを心がけています。打席では、プロの投手はコントロールが良いので失投や甘い球が少ないんですよね。そこをいかに一球で仕留められるを意識しています」

 そんな田中を当時の野村謙二郎監督は「試合勘のある選手」と評価した。この“試合勘”は、田中自身も、これまで大事にしていた部分だった。

「中学のボーイズリーグの監督が、野球をよく知っている方だったんです。そこでいろんな難しいサインプレーをしたり、細かなプレーをしたというのが基礎になっているのかなと思います。そのまま東海大相模高に入ったのですが、そこも厳しかったので、技術とか野球観が鍛え上げられたのかなと。常にレベルの高い環境だったのでそれが一番の要因だと思います」

 熾烈なレギュラー争いを勝ち抜くために何が一番重要か? いよいよ開幕を直前に迎えた当時、田中はこう言葉を紡いでくれた。

「自分がやるべきことをずっと続けられるかだと思うんです。変に意識して打った、打たない、エラーした、エラーしていないで一喜一憂するんじゃなく、常に一年を通してコンスタントに結果を出せれば、どこかでチャンスは巡ってくるのかなと思っています。虎視眈々と狙っていきますよ」

 実際にペナントレースが始まると、まさに有言実行ともいえる活躍で、チームに貢献した田中広輔。打率.292、9本塁打、34打点、10盗塁を記録し、首脳陣からの期待に見事応えてみせた。