スポーツジャーナリストの二宮清純が、ホットなスポーツの話題やプロ野球レジェンドの歴史などを絡め、独特の切り口で今のカープを伝えていく「二宮清純の追球カープ」。広島アスリートマガジンアプリ内にて公開していたコラムをWEBサイト上でも公開スタート!

 いささか旧聞に属する話だが、カープは17日、敵地での中日戦で球団ワーストの17に迫る16三振を喫し、0対5で敗れた。

 中日の先発・柳裕也の術中にはまったと言えばそれまでだが、ボール球に安易に手を出している点が気になった。

「三振にもいい三振と悪い三振がある」。生前、知将・野村克也はよくそう語っていた。

 野村が言うには、“いい三振”とは、「狙い球が外れた結果の見逃し三振」である。「ストライクゾーンの四隅に決まったボールは、そう簡単に打てるものではない。狙い球が外れた時は、バットを振らずにベンチに帰ってくればいいんだ」

 この野村理論で復活したのが東北楽天時代の山崎武司である。2007年にはホームラン王と打点王の二冠に輝いた。

 野村と出会うまで、山崎は見逃し三振を「恥」だと考えていた。ストライクを見逃してベンチに戻ると、“闘将”と呼ばれた監督から「バットくらい振ってこい! チームの士気が落ちる」と怒鳴られたことがあったという。それがトラウマになっていたというのだ。

 では、野村にとって“悪い三振”とは? 「追い込まれるとダボハゼみたいに何でも手を出すヤツがおるやろ。あれはバットを振っているとは言わん。振らされているだけや」。意訳してネーミングすれば“ダボハゼ型空振り三振”である。

 ある時、口さがない評論家が野村に突っかかった。「監督、でもバットを振らんかったら何も始まらんでしょう」。ジロッとにらみつけたノムさん、おもむろにこう言った。「それは(守備に難のある)アマチュアレベルの話。プロは一試合に、いくつエラーするか知ってんの?」

 あくまでもバットは「振る」ものであって「振らされる」ものではない。野村の主義主張は一貫していた。カープもぜひ参考にして欲しい。

(広島アスリートアプリにて2021年4月26日掲載)

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二宮清純(にのみや せいじゅん)
1960年、愛媛県生まれ。明治大学大学院博士前期課程修了。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク 統括マネージャー。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)などプロ野球に関する著書多数。ウェブマガジン「SPORTS COMMUNICATIONS」も主宰する。