鈴木誠也が史上177人目となる通算150本塁打を達成した。ここでは歴代4位となる通算536本塁打(大学出身者では日本最多)を記録した山本浩二氏の『スラッガー論』を再録。昭和の強打者の打撃理論に迫ることで、鈴木のすごさを改めて浮き彫りにする。
(『広島アスリートマガジン』2012年5月号掲載)

昨季はプロ野球史上4人目となる『5年連続打率3割・25本塁打』も達成した鈴木誠也選手。

 昔も今も野球自体は変わらないものの、時代の流れと共にトレーニング法は変化している。一昔前はプロ野球選手がジムでトレーニングを行うことなどなく、ランニングが基本だった。現在は体幹を鍛えるコアトレーニングが浸透しているものの、スラッガーとしては上半身よりも下半身の力が必要となる。

 スラッガーにとって非常に大事なのが“間”だ。下半身が強ければ、粘りが生まれる。『懐が深い』という表現も同じことを指す。ステップして打つ姿勢を0コンマ何秒でも長くできれば、そのぶん球を呼び込めるのだ。

 どんな優れたスラッガーであっても、厳しいコースの球を本塁打にすることなど年に数回しかない。では、なぜ年間30本を超える本塁打が出ているのかといえば、いかに相手投手の失投を逃さずに打てるかにある。

 甘い球をしっかりと捉えることが大事なのだ。対戦する投手は打者のタイミングをズラし、ボール球などを混ぜて抑えにくるが、どんなに一流の投手でも常に針の穴に糸を通すようなコントロールは不可能。試合の中で必ず失投はくるもので、その球をいかに逃さずに仕留めるかが勝負となる。

『エースを打ってこそスラッガー』と言われるが、失投の少ない投手から一本打てば、その後の対戦にも影響する。相手は警戒を強め、ボール先行の投球となり、ストライクを取りにきた球が甘くなるという悪循環に陥ることも珍しくない。

 プロの世界でいくら経験や実績を積んでも、打撃を極めることは不可能だろう。長いプロ野球の歴史を見ても、打率10割は当然として、打率5割を残した選手すらいない。打撃は失敗が多く、一流打者でも7割失敗していることになる。

 一般的に評価が大きく異なる打率3割と2割5分だが、100打数ではわずかに5本の違いであり、シーズン500打数であっても25本しか違わない。数字だけで見るとわずかな差ではあるが、その差を埋めることがとても難しい。そのあたりに打撃の奥深さがあるように感じてならない。