スポーツジャーナリストの二宮清純が、ホットなスポーツの話題やプロ野球レジェンドの歴史などを絡め、独特の切り口で今のカープを伝えていく「二宮清純の追球カープ」。広島アスリートマガジンアプリ内にて公開していたコラムをWEBサイト上でも公開スタート!

 いきなりサッカーの話で恐縮だが、日本サッカー史上最高のストライカーは銅メダルに輝いたメキシコ五輪の得点王・釜本邦茂を措いて他にはない。

 釜本と言えば右45度からの右足の強烈なシュートが有名だが、コントロールも抜群だった。全盛期は、ほとんど狙い通りのコースにボールを通すことができたという。

 強くて正確なシュートを打てる秘訣は何か。釜本は「まず軸足がしっかりしていること」と語った。軸足が定まらなければ、ボールを制御することさえ難しい。

「釜本さんの軸足は地面から根が生えているように太く、動かなかった」。そう語ったのは元日本代表DFの加藤久だ。読売クラブ(現・東京ヴェルディ1969)時代、ヤンマー(現・セレッソ大阪)のFW釜本の足を削りにいくと、逆に弾き返されてしまったというのだ。「まるで大木のようでしたよ」

 今や不動の守護神の役割を果たしている栗林良吏の軸足もブレない。釜本なみに「地面から根が生えている」ように映る。だから強くて勢いのあるボールを投げることができるのだ。

 時折、コントロールを乱すことがあるが、それでもすぐに修正することができるのは、軸足が定まっているからだろう。同様のことは森下暢仁についても言える。

 金城基泰や川口和久を発掘した今は亡き名スカウトの木庭教に「プロで伸びるピッチャーは?」と問うと「立ち姿の美しい子かな」と答えた。軸足にしっかり力を溜められるから、フォームに躍動感がみなぎっているように映るのだろう。栗林も威風堂々の立ち姿である。

(広島アスリートアプリにて2021年5月17日掲載)

毎週月曜日に広島アスリートアプリにてコラム「追球カープ」を連載中。
※一部有料コンテンツ

▼二宮清純の人気コラム等を多数掲載!ウェブサイト「SPORTS COMMUNICATIONS」はこちら▼

----------------------------------------------------------------------------------

二宮清純(にのみや せいじゅん)
1960年、愛媛県生まれ。明治大学大学院博士前期課程修了。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク 統括マネージャー。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)などプロ野球に関する著書多数。ウェブマガジン「SPORTS COMMUNICATIONS」も主宰する。