90校、86チームが参加した夏の第103回全国高校野球選手権広島大会は、広島新庄が昨秋、春に続き3季連続で、県内無敗のまま優勝で幕を閉じた。

夏の広島大会5年ぶり3度目の優勝を果たした広島新庄

 広島新庄は優勝までに6試合を戦い、52得点。左打者を多く並べ、機動力を絡めた打線は、今大会チーム打率.367、23盗塁。4回戦では三者連続本塁打が飛び出すなど、高い攻撃力を示した。

 守っては、6試合で13失点、決勝戦を含め3試合を零封で勝っている。失策は大会を通じて投手の打球処理のミスによる1のみで、堅守を誇った。失点した3試合のうち相手にリードを許した2試合は、何れも右腕の花田侑樹(3年)が先発した試合。投手力を誇るチームだが今大会は、花田の直球の制球が乱れる場面が目についた。左のエースと目された秋山恭平(3年)は、本人の言葉を借りれば「コンディション不良」で出遅れ、初登板が準々決勝の9回だった。

 その投手陣を救ったのが、左腕の西井拓大(3年)。テンポの良さと、卓越した制球力を持ち、宇多村聡監督が「冷静沈着」と評価する投球で、6試合全てに登板し、33イニング、失点5と好投した。

 花田と秋山の左右のエースを追いかけ地道にトレーニングを重ねた結果が今大会で花開いたが、2年前に彼の活躍を確信していた人物がいた。練習試合をした西条農の三浦謙二郎監督に、「これから一番伸びるのは西井」と、当時の迫田守昭監督は話した。左腕で良い投手だが、広島新庄には何人でもいるレベルの投手と思ったが、念のため三浦監督はメモをした。今大会の準決勝の西条農戦で最後を締め、勝ちに導いたのが、その西井投手。西井の持つ技術と体力、精神力を見て、当時の監督は成長を見抜いていた。

 準優勝は、公立の進学校・祇園北。前評判は決して高くなかったが、2回戦でシード校の山陽を、延長11回、13-11で打ち勝ってから波に乗った。6試合で66安打し、45得点したチームは、打撃のチームに見られがちだが、しっかりした守備力と投手力も兼ね備えていた。外野の守備はスタート良く、好中継。投手起用はエースの山本優貴(3年)を2番手以降に持ってきて、後半勝負の作戦を取った。先発投手がある程度試合を作れば、後半は自慢の打撃で勝ち切る作戦だ。データを集め「動作解析に基づく指導」は、軸のしっかりした打撃と、力強い球を投げる投手陣を作り上げた。

 ベスト4には、西条農と呉の公立2校が入った。西条農は準決勝で広島新庄と延長12回、8-7の熱戦を演じた。準々決勝までの4試合で失点は僅かに2。沖田琉弥(3年)、佐々木七海(3年)、楠大希(3年)の3右腕が競い合って成長。就任10年目の三浦監督が選手に語った「俺を甲子園に連れて行ってくれ」の願いにはあと一歩届かなかった。

 呉は投手力で勝ち上がった。2度出場(2017年、2019年)したセンバツでは主戦1枚で戦ったが、今大会は右上手の石野航多(3年)と左サイド・古澤祐希(3年)と、タイプの異なる投手の継投策を使った。シード校・呉港との呉決戦を制したが、準決勝の祇園北戦では序盤の走塁ミスが響いて惜敗した。

 ベスト8に残ったシード校は、僅かに2校。6校が早々と姿を消したが、広陵もその1校。4回戦で高陽東に、延長10回、6-5で惜敗した。広島新庄の対抗馬と目された広陵は、投手陣が誤算だった。春の背番号1・林燦(3年)が怪我でベンチ外、福島孔聖(3年)は故障上がりで本来の投球が出来ず。2年生の内海優太、松林幸紀、1年生の岡山勇斗らが登板したが、2勝しただけで敗退した。昨夏の覇者・広島商も投手力が上がらないままだった。

 打撃が活発な夏の大会で、1-0の投手戦が2試合あった。2回戦の西条農1-0大竹の試合は、西条農が6回裏に1点を先制。7回表の大竹の攻撃終了後に降雨コールドとなった。主戦・沖優司(3年)が好投していただけに、大竹にとって無情の雨となった。4回戦の西条農1-0沼田の試合は、1回表、西条農が振り逃げで二塁に進んだ走者を村中大成(3年)が適時打で返し、これが決勝点。沼田打線は2安打で、西田太陽(3年)の好投に報えなかった。

 今大会は公立校の活躍が後半目立った。16強に残った公立は7校。うち4校がベスト8に残り、4強には3校が残っている。コロナ禍で大会直前に練習試合や県外遠征、練習時間が制約された。例年私立強豪校が行う大会前の強化試合や合宿が6月下旬まで出来なかった。「俺たちはここまでやってきたんだから負けるはずがない」。自信に満ちた、満足感ある練習が奪われたことが、精神的優位さに立てなかったとみる。唯一、6月に他県の強豪と試合が出来たのが広島新庄。春季中国大会での2試合の自信と反省が、選手権大会の優勝に導いた。

文=ライター藤原史郎