東京五輪の野球競技で悲願の金メダルを獲得した日本。コーチとして五輪を2度経験した、カープOBの大野豊氏に、今回の日本代表の戦いを振り返ってもらった。 

アテネ五輪、北京五輪で投手コーチを務めた大野豊氏。

◆接戦を勝ちきったことで流れに乗った

 カープから選ばれた2投手が非常に良い活躍をしました。まず森下暢仁ですが、2戦目のメキシコ戦と決勝のアメリカ戦で先発を任されました。プロ2年目で、侍ジャパンの先発2番手ですからたいしたものです。特に決勝は、相当な緊張感があったと思いますが、シーズン同様、丁寧なピッチングを心がけ、5回を無失点に抑えてくれました。結果がすべての試合のなかで1点も取られていないわけですから、これはもう褒めるしかない。素晴らしい投球だったと思います。

 そして、カープ同様に、侍ジャパンでも抑えを任された栗林良吏。急遽クローザーに抜擢されたようにも思いましたが、5試合すべてに投げて、勝利を呼び込む投球をみせてくれました。彼の持ち球が十分通用したと思いますし、特にフォークボールは、非常に大きな武器になっていました。五輪では、シーズンとは違う球を使用するため、もしかすると戸惑いがあったかもしれませんが、しっかりと打者と勝負できる状況をつくっていました。計り知れない重圧のかかる登板が続く中でしっかりと結果を出す、栗林の心の強さというのを改めて感じました。

 東京五輪の野球競技が始まるまで、接戦の試合をいかに勝ちきれるかが、金メダル獲得のポイントになると思っていました。アテネ五輪も北京五輪も、大事な試合を接戦を落とし結果を残せなかったからです。そういう意味では、初戦のドミニカ共和国戦、9回裏に2点差をひっくり返しサヨナラ勝利を飾ったのは非常に大きかったですね。また、2ラウンドのアメリカ戦も9回に同点に追いつくと、タイブレークの延長戦で勝利。相手チームに流れがあるまま試合が進んでも、最後には勝ちに結びつける戦いが非常に多かったというのが、今回のチームの強みでしょうね。

 今回の大会は、アテネ五輪や北京五輪の時と違う大会形式でしたが、負けていい試合は1試合もなかったと思います。そのなかで5連勝で優勝したというのは、自国開催というメリットもありますが、監督、コーチ、選手を含め、チームとしての粘り強さ、執念、そしてチームとして非常に良い準備をして五輪を迎えたからこそだと思いますね。