不調打者を調律する明快なチェックポイント

 現役生活は10年で終わったが、朝山は多くのことを学んだ。軸足の重要性、前側の壁の使い方、さらには1球にかける集中力……今の指導の原点になっている。学びは続いた。2005年から三軍野手コーチに就任、まずはノック技術をマスターしなければならなかった。練習が終われば、フィールドに目標物を置き、狙った場所にゴロやライナーが打てるようノックバットを握り続けた。ノック練習からも打撃面の気づきがあった。

 「ノックバットは長いので、バットが力を貸してくれます。ハンドリングでいかにバットに仕事をさせるかです。手の使い方に関しては、現役時代よりコーチになってからの方が上手かもしれません。長いノックバットは遠心力で球が飛びます。バットが仕事をしてくれるわけですから、あとは、球にバットをどう入れていくかです。どうすればトップスピンで真っすぐなライナーを打てるかなど、学ぶことは多いです」

 あらゆる経験からノウハウを蓄積し、朝山は二軍打撃コーチとしてカープ3連覇に大きく貢献をした。打者には好不調の波がつきもの。シーズン途中に調子を落とした打者をことごとく最短期間で調整し、一軍戦線に送り返していったのである。

 チェックポイントは明快である。土台となるとなる下半身の使い方、上半身の幹の部分、肘より先であり膝より先の部分。もちろん、メンタルの部分も重要である。現状把握を終われば、具体的な練習メニューを提示する。まさに処方箋である。このプロセスを知るだけに、一軍打撃コーチとなった2020年のシーズンも、選手から絶大な信頼を受ける。

 ただ、新型コロナウイルス感染拡大に伴う開幕延期である。オープン戦で打撃陣は好調だっただけに、もう一度仕上げていくのは骨の折れる仕事である。しかし、朝山はあくまで前を向く。

 「もう一度スイング量を増やしても良いかなと思います。どうしても実戦が続くと、結果を求めて、どこかでスイングが小さくなってしまう部分があります。なので、この時間でしっかりバットを振るようにしておいても良いかと思います」

 コーチ16年目のシーズンは、なかなか見えてこない開幕日に選手のピークを合わせる難作業から始まる。ただ、朝山のことである。ここからも、何かを学びとるに違いあるまい。

<著者プロフィール>
坂上俊次(さかうえしゅんじ)。中国放送アナウンサー。 
1975年12月21日生。1999年に株式会社中国放送へ入社し、カープ戦の実況中継を担当。著書に『カープ魂 33の人生訓』、『惚れる力』(サンフィールド)、『優勝請負人』、『優勝請負人2』(本分社)があり、『優勝請負人』は、第5回広島本大賞を受賞。現在「広島アスリートマガジン」、「デイリースポーツ広島版」で連載を持っている。

著者新刊が絶賛発売中!

広島アスリートマガジンの名物連載『赤ヘル注目の男たち』でもおなじみ、坂上俊次さんが執筆した書籍『「育てて勝つ」はカープの流儀』(カンゼン)が絶賛発売中!名選手を輩出する土壌、脈々と受け継がれるカープの“育成術”を、カープ戦実況歴20年の著者の視点から解き明かす! 

ご購入はこちらから!