B1得点王のニック・メイヨ、日本代表のキャリアも持つ辻直人、京都ハンナリーズの司令塔・寺嶋良、1試合平均15.6得点のビッグマンであるチャールズ・ジャクソン・・・。広島ドラゴンフライズの補強が話題を集めている。

 B1西地区最下位からの飛躍を狙うチームは、地方クラブの苦難の歴史をバネにしてきた。そして、覚悟の補強で、2021-22シーズンの台風の目と見られている。このチームの持つポテンシャルと巨大補強の背景を、9月3日発売「朱に交われば、朱くなる」(秀和システム・刊)の著者である坂上俊次氏(中国放送アナウンサー)が全4回にわたって綴っていく。

新ヘッドコーチに就任した、カイル・ミリング氏。

 身長204センチの新・ヘッドコーチは、就任会見でも丁寧に言葉を選んでいた。そのコメントは、どこまでも地に足がついていた。

「クラブの理念を知っている選手も残ってくれて、新しいプレーヤーも入ってきた。クラブの培ったものと新しい風がミックスされると思います」

 特定の選手ばかりに目を向けるわけではない。派手な戦術のプランを披露するわけではない。繰り返し強調したのは、「ディフェンス」であった。

「個人的にはリーグで1番のディフェンスのチームにしたいです。ディフェンスは1人でできるものではありません。チームでしっかり共通認識が必要です。スリーポイントとか他のプレーは、資質やタレントに頼るところも大きいでしょうが、ディフェンスなどは、しっかり伝えていけばやれる部分も大きいと考えます」

 新指揮官が追い求めるのは、チームスポーツとしてのバスケットボールである。ミリング氏は、フランスで長く指導者のキャリアを積んできた。その中で、ビッグクラブではなく選手層に恵まれなかったこともある。「そんなときでも、ディフェンスのメンタリィティーは構築できたし、それによって勝利することもできた」と振り返る。

 コミュニケーション、戦術の構築。それらを含めて、岡崎修司GMは「遂行力」と表現する。約10年を要して、ドラゴンフライズは、クラブの石垣を積み上げてきた。ただ、一気に飛躍することばかりは求めていない。

 どんなときも揺るがない、チームの確固とした土台。クラブの魂のようなものを培いたいのである。チームの顔である朝山正悟はこう言う。

「メンバー表を見れば、楽しみです。狙えるような構成になりました。でも、不安がないわけではありません。本当のレガシーでありカルチャーに魅力を感じてプレーできるかどうかです。このユニフォームで、何を背負ってプレーするかです」

 シーズンオフ、広島ドラゴンフライズはBリーグ全体からも注目されるような大型補強に成功した。しかし、それだけではない。40歳のベテランが語り継ぐ「伝統」と地に足がついた指揮官の「言葉」。

 まだ石垣。それでも石垣。広島ドラゴンフライズは、足場を固めながらも、大きな飛躍を遂げるはずである。

「朱に交われば朱くなる」著・坂上俊次(中国放送アナウンサー)/秀和システム

経営陣は3度の交代、ヘッドコーチは延べ7人目、資金面、戦力編成、試合会場の手配・・・さまざまな課題を乗り越えながら
B1昇格を果たした、広島ドラゴンフライズ。カープ、サンフレッチェとプロスポーツチームが根付く地方都市にあって、「第3のプロスポーツを」と奮闘した男たちの約9年間を追った。ミスターバスケットボール佐古賢一は、何故、広島の地でのリスクある挑戦に挑んだのか。なぜ、日本代表キャリアを持つ、竹内公輔や朝山正悟は、この「いばらの道」に闘志を燃やしたのか。地域、財界、選手、フロント、リーグに至るまで。クラブ立ち上げから取材してきた著者が徹底取材した一冊。

 

坂上俊次 さかうえしゅんじ(中国放送アナウンサー)
1975年12月21日生、兵庫県出身。1999年に中国放送に入社。

主にテレビ・ラジオでカープ戦の実況中継を担当。Bリーグ、ホッケー、駅伝の中継も担当し、Bリーグ中継では、2019年度、JNN・JRNアノンシスト賞ラジオスポーツ中継部門 優秀賞。2020年度は、ホッケー日本リーグ中継で、JNN・JRNアノンシスト賞テレビスポーツ実況部門 最優秀賞に輝く。

著書に『カープ魂33の人生訓』(サンフィールド・2011年)、『優勝請負人 スポーツアナウンサーが伝えたい9つの覚悟』(本分社・2014年)がある。『優勝請負人』では第5回広島本大賞を受賞。その後、『惚れる力 カープ一筋50年 苑田スカウトの仕事術』(サンフィールド)、『優勝請負人2』(本分社)や『育てて勝つはカープの流儀』(カンゼン)を刊行。「広島アスリートマガジン」ではカープを追う連載を続け、220回を超えた。その他、デイリースポーツ広島版、「コーチングクリニック」などに連載を持つ。中国経済産業局の主導する、ちゅうごく5県プロスポーツネットワークでコーディネーターも委嘱されている。