B1得点王のニック・メイヨ、日本代表のキャリアも持つ辻直人、京都ハンナリーズの司令塔・寺嶋良、1試合平均15.6得点のビッグマンであるチャールズ・ジャクソン・・・。広島ドラゴンフライズの補強が話題を集めている。

 B1西地区最下位からの飛躍を狙うチームは、地方クラブの苦難の歴史をバネにしてきた。そして、覚悟の補強で、2021-22シーズンの台風の目と見られている。このチームの持つポテンシャルと巨大補強の背景を、9月3日発売「朱に交われば、朱くなる」(秀和システム・刊)の著者である坂上俊次氏(中国放送アナウンサー)が全4回にわたって綴っていく。

 2回目の今回は、初代ヘッドコーチ佐古賢一の言葉を交えて、チーム創成期を振り返っていく。

2021-22シーズンから広島ドラゴンフライズでプレーが決まった寺嶋良選手

 ひとりの選手で、チームの空気は一変することがある。広島ドラゴンフライズ初代ヘッドコーチを務めた佐古賢一は、そのことを知っている。

 2014年、生まれたばかりのドラゴンフライズ、主戦場はNBLだった。まだBリーグが誕生する前のことである。

 練習会場にはエアコンもなかった。1時間もすると床は汗でびっしょりとなる。それどころか、練習場所の確保が課題になるような状況だった。選手獲得も出遅れていた。キャリア十分の選手の入団は叶わず、大学2部リーグや地方の選手が中心の構成を余儀なくされていた。

「バスケットのプレーを選手たちが組み立てられないのです。勝利へのイメージもなく、それぞれが自分の欲求を満たすためのようなバスケットボールでした」

 そこに、1人の大物が、佐古に連絡をしてきた。

「チームが苦しいんじゃないですか?何か力になれるならなりたいです」

 声の主は、慶應義塾大でインカレを含む2冠、206センチの日本代表の顔、竹内公輔(現・宇都宮ブレックス)だった。佐古を慕って広島にやってきた男は、チームを変えた。その効果を佐古は力説する。

「他の選手の責任や自覚が飛躍的に変わりました。最初は、モチベーションのレベルの高さが違うといいますか、何のために戦うかという意識が違いました。それが、竹内の存在があることで、そこに追いつこうという雰囲気になりました」

 有機的につながりあったチームはミラクルを起こす。翌2015年1月、天皇杯 全日本総合バスケットボール選手権で準優勝を果たしたのであった。

 この快挙が自信を与えたのは、選手だけではなかった。まだメインスポンサーがなく、資金繰りも含めて奔走するフロントにとっても大きな勇気になった。

 1人の選手はチームを変える。それだけでなく、フロントを含めたクラブ全体も変える。やはり、戦力補強は「掛け算」なのである。その歴史から学ぶドラゴンフライズは、どこまでも丁寧にチームづくりを進めていく。

「朱に交われば朱くなる」著・坂上俊次(中国放送アナウンサー)/秀和システム

経営陣は3度の交代、ヘッドコーチは延べ7人目、資金面、戦力編成、試合会場の手配・・・さまざまな課題を乗り越えながら
B1昇格を果たした、広島ドラゴンフライズ。カープ、サンフレッチェとプロスポーツチームが根付く地方都市にあって、「第3のプロスポーツを」と奮闘した男たちの約9年間を追った。ミスターバスケットボール佐古賢一は、何故、広島の地でのリスクある挑戦に挑んだのか。なぜ、日本代表キャリアを持つ、竹内公輔や朝山正悟は、この「いばらの道」に闘志を燃やしたのか。地域、財界、選手、フロント、リーグに至るまで。クラブ立ち上げから取材してきた著者が徹底取材した一冊。

 

坂上俊次 さかうえしゅんじ(中国放送アナウンサー)
1975年12月21日生、兵庫県出身。1999年に中国放送に入社。

主にテレビ・ラジオでカープ戦の実況中継を担当。Bリーグ、ホッケー、駅伝の中継も担当し、Bリーグ中継では、2019年度、JNN・JRNアノンシスト賞ラジオスポーツ中継部門 優秀賞。2020年度は、ホッケー日本リーグ中継で、JNN・JRNアノンシスト賞テレビスポーツ実況部門 最優秀賞に輝く。

著書に『カープ魂33の人生訓』(サンフィールド・2011年)、『優勝請負人 スポーツアナウンサーが伝えたい9つの覚悟』(本分社・2014年)がある。『優勝請負人』では第5回広島本大賞を受賞。その後、『惚れる力 カープ一筋50年 苑田スカウトの仕事術』(サンフィールド)、『優勝請負人2』(本分社)や『育てて勝つはカープの流儀』(カンゼン)を刊行。「広島アスリートマガジン」ではカープを追う連載を続け、220回を超えた。その他、デイリースポーツ広島版、「コーチングクリニック」などに連載を持つ。中国経済産業局の主導する、ちゅうごく5県プロスポーツネットワークでコーディネーターも委嘱されている。