昨年は独自大会の開催となり、今年もコロナ禍の影響を受けている高校野球界。今年は2年ぶりの通常大会開催となるも、さまざまな面で制約もあった。コロナ禍における広島県の高校野球について、広島県高野連・副理事長の碓氷直樹氏に大会運営の思いを聞いた。

グラウンド外で運営に携わる高校生の奮闘もあり、大会は運営された。

◆運営に関わる生徒がいるから大会を行うことができている

ー大会運営にはさまざまな方々が関わっていますが、どのような方式なのでしょうか?

「広島県内の地区によっていろんなやり方がありますが、近隣の高校で、ローテーションであったり、動いていただける高校にご協力いただいたりバランスよく来ていただいて運営しています」

ー各試合会場には数多くの野球部員を中心に生徒のみなさんの姿が目立ちます。

「関わる生徒たちはみんな試合に出たい、見たいという気持ちがあるはずです。例えばチケット売りの担当がいなければ運営は成立しません。駐車場担当の生徒は、試合を見られないだけでなくとにかく暑い中頑張ってくれていますし、本当に感謝しかありません。当然最初はマナーなどをレクチャーしますが、嫌な顔をせずにやってくれています。グラウンド整備の生徒も暑い中での作業となります。彼らが整備して線を引いてくれているから、試合が成立しているんです」

ー円滑な運営の裏には、生徒のみなさんの苦労があるのですね。

「駐車場担当は高校生ですから慣れない部分も大いにありますし、満車時などは彼らも辛い状況に遭遇することもあります。私も抽選会時の司会で必ず『野球部員が頑張って運営してくれているので、そこを考慮した対応を』とお願いをしています。中には練習をしたいのに学校を休んできてくれている生徒もいる。できれば大人が立ちたいんですけど、場所や人数の関係によっては、どうしてもできないときがあります。本当にありがたいと思っています。私自身も大会現場で他校生徒を受け持った際、その子たちが3年なってレギュラーとして試合に出ていたら本当にうれしい気持ちになります。彼らもこの作業を覚えてくれていて、『すごく役だった』『運営がすごい自信になりました』とやって良かったという声たくさんを聞かせていただいています」

ー試合運営に携わる彼らの頑張りも含めて高校野球が成立するのですね。

「野球は技術だけではないということだと思います。精神、鍛錬、いろんなものを学ぶんだと思います。そういう部分が分かった生徒は強いと思います。野球の技術が足らないから、球場要員に来ているわけではないんです。ちゃんと与えられた仕事を遂行する力がある、また、臨機応変に対応できる力がある。信用できる。だから、各学校の監督・部長から球場要員に選ばれているんです。運営に携わることで、多くのことを吸収して、野球の技術以外の多くのことを学んでいます。そして、これらの経験が生徒自身の様々な面でのスキルアップにつながっていっているのだろうと感じています。」

ーコロナ禍を経験されて改めて感じたことはありますか?

「やはり制約があるからこそ、いろんな知恵を出し合って運営をしていくわけです。負担を減らしながらスムーズに運営できることなど、この状況になったからこそ、学ぶことがありました。また、各校の先生方がすごく協力的に動いていただきました。先生方も生徒を矢面に立たせられないという思いがあるので、積極的に運営に協力してくれたり。炎天下の中、先生たちが顔を真っ赤にして駐車場に立つ場面も増えたりしました。この状況を見ると〝チーム広島〟という感じですし、なんとか大会をスムーズに運営しようという意識が高まったと思います」

ーそれだけ高校野球に対する熱い思いを持った方々が多いのでしょうね。

「高校野球は学べることが多いと思います。野球技術はもちろんのこと、その中で協調性、精神力などいろいろ言われますが、言葉では表現できない何かすごく大きなものが身に付くと思います。そして体験でしょうね。勝っても負けても、終わったあとの整列というのは良いものです。あの瞬間は、バーチャルでは味わうことはできない、何かを教えてくれる大事な瞬間だと思います」

ーその瞬間は、大会運営に携わる人たちの思いが詰まっているのですね。

「試合を開催する上で、大会運営に関わるどのパーツが欠けてもいけないんです。ここ2年でそれを改めて感じた部分もあります。試合に出て打った、投げたという場面がクローズアップされがちです。ですが、そうじゃない一人ひとりの行動があるからこそ、選手はプレーすることができるんだなと。年配のOBの方々にも『俺もやってたよ』と振り返ってもらいたいです。もしかしたら試合には出れず整備ばかりやっていたという人もいるかもしれません。ですが、それは決して無ではないんです。『それがあるから試合が成立している』ということを再認識してもらいたいですね。この場を借りてお伝えしたいのが、103年にわたり開催してきた広島県高校野球の中で、『あのチケット売りしたよ』とか『グラウンド整備したよ』という方々が多数います。その方々に改めて感謝をお伝えさせていただきたいです。またこれから高校生になり、高校野球に携わるであろう生徒たちにも『ご協力をお願いします』と伝えたいですね」

取材・文=広島県高校野球ダイジェスト編集部