10月11日に迫ったドラフト会議。プロ野球選手を目指す全てのプレイヤーにとっては“運命の日”だが、同時に各球団にとっても将来を左右する大事な一日になる。

 しかし、ドラフトを本当の意味で“評価”できるのは早くても数年後。指名した選手がプロでどんな成長を見せ、チームの戦力になるかは誰にも分からない。今回は過去のドラフトから、カープの“運命”を決定づけた“一日”を振り返る。

2013年ドラフトでは、先発ローテーション投手2人、3連覇に貢献した正遊撃手、才能あふれる若手のホープなどを獲得した。

◆後のカープを支える素材を同一年に獲得できた2013年ドラフト

 今から8年前の2013年――。 

 アベノミクスが始動し、のちに延期となる2020年五輪の開催地が東京に決定したこの年、ドラフト会議の主役は甲子園で1試合23奪三振を記録した左腕と、九州六大学リーグのエースだった。

 高校2年時の夏の甲子園で驚異的な奪三振ショーを見せた松井裕樹(桐光学園高、現楽天)には、大方の予想通り大量5球団が競合。抽選の結果、楽天が交渉権を獲得した。

 そしてもう一人の“主役”が、最速153キロを誇る大学球界ナンバーワン右腕・大瀬良大地(九州共立大)だった。この年、野村謙二郎監督のもとで実に16年ぶりのAクラスを決めたカープは、近い将来の“黄金時代復活”を目指し、即戦力の呼び声高い右腕を果敢に1巡目で指名。ヤクルト、阪神との競合となったが、抽選で見事に交渉権を獲得した。

 結果的に大瀬良は翌年のルーキーイヤーに10勝を挙げて新人王を獲得。現在は押しも押されもせぬカープのエースへと成長した。

 さらに2巡目では亜細亜大学の九里亜蓮を指名。身長186センチの大型右腕は大瀬良よりもやや時間はかかったが、現在は先発ローテに定着。大瀬良とともにチームの投手陣を支えている。

 上位2選手が現在の先発ローテの中心というだけでも“大成功”と言えるが、カープの運命をさらに変えたのが3巡目・田中広輔(当時JR東日本)だ。実はカープは、ドラフト前から田中の実力を「アマチュアナンバーワン野手」と評価していたようだ。

 ただ、この年のカープの補強ポイントは“即戦力の投手”。ドラフト前の会議で1~2巡目は投手を指名することが決定され、この時点で田中の獲得は見送ることになっていたという。

 しかしドラフト本番、3巡目の指名選手を決定する席上で、松田元オーナーがあることに気付く。

「田中が、まだ指名されていないぞ?」

 担当スカウトの尾形佳紀は慌てて席を離れ、すぐさま所属先のJR東日本に電話を入れる。

「田中がまだ指名されていないんですけど、どこかケガとかしていないですよね?ウチが指名してもいいですか?」

――かくして、予期せぬ形で「カープ・田中広輔」は誕生する。

 その後の活躍はご存じの通り。田中は1年目から1軍でレギュラーを獲得し、同学年の菊池涼介、丸佳浩(現巨人)とともに「タナキクマル」トリオを形成。2016年からのリーグ3連覇に貢献している。

 ちなみに、この年の5巡目指名・中村祐太も田中と同じく尾形スカウトが担当。「ストレートの質は藤川球児を彷彿とさせる」とまで称されたその素質は、まだ完全には開花していないが、昨季は8試合に先発して防御率2.31と、その片鱗を見せている。

 2021年時点で、2013年のドラフトで指名された5選手中、4選手が現役を継続中(4巡目指名の西原圭太は2016年に現役引退)。

 先発ローテーション投手2人、3連覇に貢献した正遊撃手、才能あふれる若手のホープ。これほどの素材を同一年に獲得できた2013年ドラフトは、カープの“現在”を形成する大きな大きな1ピースになっている。