前回のコラムで「経験学習のサイクル」について触れました。
今回は、このサイクルを実際に回す上でのポイントについて説明したいと思います。

 

【小手先ではなく、受け止め、掘り下げる】

「事実をしっかりと捉え」それを「もう一段階掘り下げること」が重要です。
起きた出来事に対して対処するだけになってしまうことは、日常でも多く起きてしまっています。

例えば、ある朝、寝坊して会社や学校に遅刻したとします。
「どうしたらよかったか?」と考え、「アラームで起きられるように」とスマートフォンのアラームをこれまでより細かく設定し、スヌーズ機能もオンにしたとします。
これでは「寝坊しない」ための対処でしかなく、寝坊してしまった原因には全くアプローチできておらず、仮に翌日の朝は寝坊しなくても、別の日に同じミスを繰り返してしまう可能性を残したままとなっています。
このプロセスを経験学習のサイクルに当てはめると、寝坊した「具体的な経験」から、いきなりどうするか、と「適用・応用」に向かってしまった結果と言えます。

では、「観察と省察」「一般化・概念化」を丁寧に扱うとどうなるでしょうか?
「なぜ今日は起きられなかったのか?」と要因を考え、前夜に夜遅くまで動画サイトを観ていた、ゲームをしていた、といった事実に気づき、「寝不足だった」という原因に行きつくことができます。
それを掘り下げると、普段の睡眠時間を思い出し「最低でも6時間程度の睡眠をしていた」ということに気づくことができれば、逆算して6時間程度の睡眠を確保できるよう早めに床に就くといった根本的な解決に至ります。
さらに、この学びによって、絶対に寝坊できない時はさらに早めに就寝する、といった対応もできるようになります。

【目の前だけではなく、先も見る】

もう1点は「目的」です。
寝坊の例であるように、私たちはどうしても目の前にある課題を解決することに焦点を当ててしまう傾向が高くなってしまいます。
これは手段が目的化してしまった結果であり、その対処は全く同じ状況にしか適用できず、似たような状況で同様のミスを犯してしまう可能性が出てきてしまいます。
また、目の前の課題に集中しすぎるあまり、課題を解決したと思ったら、また別の課題、しかも予め想定できるような課題に直面することがあります。

例えばプロ選手を目指している学生アスリートが、目の前の勝敗や課題だけに集中してしまうと、近視眼的に目先の結果を求めるようになってしまいます。
これでは、小手先のテクニックに頼ってしまうだけではなく、上手くいくことだけを考え、チャレンジをしなくなる可能性もあります。

こうならないためには、「目的」を意識することが重要です。
スパイラルアップで成長していく為にも、目の前にある課題だけではなく、「何のために?」「目指す姿は?」といった「目的」を忘れずに取り組むことが大切です。
目的を意識することで、目の前の課題に対する対処だけでなく、根本的な原因を見出し解決に向かうことから、より良い解決策を見いだす可能性も出てきます。

表層的な対応しかできていないことが実は多くあります。
ついつい、起きたことに対処するだけになってしまい、小手先のテクニックで乗り越えられたとしても、再び同じような状況に至った際に、同じようなミスを繰り返してしまう可能性は高いままです。
目的意識を持ち、事実をしっかりと捉え、もう一段階掘り下げることによって、私たちは他の場面や状況でも生かせる「知恵」を得ることができます。

「大切なのはここまでの過程を、この先の人生にどうつなぐかだ」
エリック・ハイデン
(アメリカ出身の元スピードスケート選手。1980年冬季五輪レークプラシッド大会では、男子スピードスケート全種目で金メダルを獲得し「パーフェクト・ゴールドメダリスト」と呼ばれる。五輪後に引退し、整形外科医となる。)

 

【プロフィール】
門田卓史(もんでん たかし)
(株)edu-activators(エデュアクティベーターズ) 代表取締役
1975年広島生まれ、2016年より現職。アドベンチャー教育、体験教育を背景に、企業や大学、学校教育、スポーツなど幅広い分野に対し、チームビルディングや組織開発、人材育成、ファシリテーション研修などを提供。理論や経験に基づく知識を提供するだけでなく、体験・体感型のワークを通し、受講者自身の気づきから学びを促す納得度の高い参加型の研修を展開。スポーツ分野においては、日本サッカー協会A級ライセンス講習会、日本バスケットボール協会S級ライセンス講習会において講師を務めるほか、サンフレッチェ広島スクールが『人としての成長』を目的に開催されるキャンプの企画運営を担うなど、成長をテーマとした研修を提供している。

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