2021年プロ野球も各チーム残り試合が10試合を切った。カープはここにきて巨人が10連敗を喫したこともあり、巨人との差が3ゲームとなった。残り8試合、クライマックスシリーズ進出にわずかな望みをかけた戦いが続く。

 今シーズンのカープは、序盤から投打の歯車が噛み合わず苦しい戦いを強いられた。チーム打率こそリーグ上位を推移してきた中で、ここまでの盗塁数はリーグ4位の63個。カープ野球といえば、“伝統の機動力野球”というイメージも強い。盗塁がすべてではないとは言え、今季は足を使った攻撃力の復活が期待されていただけに、“カープらしい攻撃”が展開しているとは言い難い。

 カープの第一期黄金時代である1970年代後半〜1980年代、“赤ヘル軍団”は古葉竹識監督の下で高橋慶彦、山崎隆造、正田耕三らが塁上を駆け巡り、幾度も得点機会をつくり続けてきた。

 この時代、カープはどのような考えで機動力野球を推進していたのか? ここでは三度の盗塁王に輝いた高橋慶彦氏が、以前本誌に語っていた“自身が考える機動力野球”を、改めて振り返っていく。

現役時代、3度の盗塁王に輝いた髙橋慶彦氏(2018年撮影)

◆いかに効率よく点を取るか?

 盗塁数が多いに越したことはありませんが『長打が出ないなら、走ろう』では得るものはありません。走者を返す打者がしっかりしているからこそ、盗塁が活きてくるのです。盗塁数が多くても、得点に繋がらないと全く意味がありません。

 現役時代、私はトップバッターを任されることが多かったですが、無死三塁、1死三塁という場面を作り出すことを念頭に置き『どうやったらチームが得点を奪えるか』を考えていました。その状況を作り出すことで、中軸のチャンスに強い打者が長打はもちろん、ゴロ、犠牲フライでも打ってくれれば簡単に得点が取れます。

 走者にしても打者にしても、置かれた状況を考え『いかに効率よく点を取るか』を頭に置いてプレーすることが大切になってきます。現役時代の私や山崎隆造、正田耕三は、無死二塁の場面で打席を迎えれば高い確立で三塁前へセーフティバントを試みていたと思います。

 決めていれば無死一、三塁、犠打で決まれば1死三塁といずれも得点を奪う確立が上がる訳です。当時の古葉監督は常に『よく考えろ』と言っていました。「次の打者は誰なのか」、「ここで打つべきなのか」、「送るべきなのか」、「次の打者はどんな調子か」など、あらゆる状況判断を考えさせられました。その方法論の中で何を選択するか? それが大事になりますし、その行動こそが『機動力野球を理解している』ということに繋がっていくと思います。