カープの守護神として大車輪の活躍を続け、10月18日現在で35セーブをあげている栗林良吏。逆転のCS進出に向けて、ドラ1右腕の活躍は欠かせない。

 いまや日本を代表する守護神に成長したドラ1右腕・栗林だが、本格的に投手を始めたのは実は大学入学以降。プロで数々の記録を打ち立てる右腕がどんな物語を紡ぎ、今の場所に立っているのか。名城大、トヨタ自動車、そして広島東洋カープ。そして栗林をよく知るキーマンに取材を重ね、広島の守護神・栗林の真実に迫っていく。

 今回取り上げるのは、カープの一軍投手コーチを務める永川勝浩。栗林良吏と同じように、1年目からフォークを武器にクローザーとして活躍。19年間の現役生活で、球団最多となる165セーブをあげた元守護神。投手コーチとなった今、同じ背番号『20』を背負う新人右腕に託した思いとは。
※取材は9月上旬。

春季キャンプから、クローザー候補として期待がかかっていた栗林。球団最多の165セーブをあげた元守護神・永川投手コーチからフォークボールの指導を受け、栗林の武器が進化を遂げる。また、クローザーとしての立居振る舞いも学び、プロ1年目から球界を代表する抑えに成長した。

◆オープン戦の結果で監督と2人の投手コーチの意見が一致

 今年のカープの守護神をどうするか。昨年19セーブをあげたフランスアが開幕前の3月にケガで離脱したために、ペナントレースを迎えるにあたり、そのポジションを誰に任せるかは最優先で考えないといけない課題でした。

 昨年、勝ちパターンの継投を担った塹江敦哉やケムナ誠もいましたが、春季キャンプ、オープン戦の結果など全てを踏まえたうえで、栗林にやってもらおうと、私と横山(竜士)コーチと佐々岡(真司)監督の3人の意見が一致しました。オープン戦の成績は4試合に投げて無失点。その4試合を見る限り、大崩れしない投手に見えましたし、ある程度は成績を残してくれるのではないかという期待はありました。

 いざ開幕してみると、こちらの想定を大きく上回る活躍。ただただ素晴らしいですよ。セットアッパーやクローザーで投げる投手は、どんな決め球を持っているかというより、自分の球を自信を持って投げることができるかどうかが一番大事です。栗林は全ての球を自信を持って投げているので結果もついてきていると感じています。

 良い意味で、今ではすっかりクローザーという仕事に慣れてきました。今年は特例により9回で試合が終わるため、自ずと栗林が投げるのは9回となります。私がクローザーで投げていた時もそうでしたが、投げる場面が決まっていると、登板に向けてやらないといけないことを逆算して行えるので、準備はしやすいと思います。登板を重ねることで自分のルーティンが確立されてきたと思うので、決めたルーティンをこなしてから登板に挑むという流れがしっかりできています。ただ、栗林はルーティンの数が多い。少し減らしてもいいのではないかと思うこともありますね(苦笑)。

◆フォークという名前が一緒なだけで栗林が投げる球はまったくの別物

 ストレート、フォークが目立っていますが、カットボールもカーブも素晴らしい球です。全ての球のレベルが高い。その中でもフォークは得意な球だと思うので、より自信を持って投げることができていると思います。

 春季キャンプで、栗林はフォークを低め低めに投げようとしていたので、「究極はストライクゾーンに落ちて打者が空振りすること」という話をしました。フォークがワンバウンドになって、打者が見逃せばボールになります。全球ストライクゾーンに投げて抑えるのが最も美しい形ですから、低めに固執しなくてもいいのでないかと伝えました。

 また、彼のフォークのキレであれば、落ちてストライクゾーンにいったとしてもそう簡単には打たれないだろうという思いもありました。私が現役時代に投げていたフォークと比べられることもありますが、正直、フォークという名前が一緒なだけで、全く違う球だと思っています。

 開幕から無失点登板を続けていましたが6月13日のオリックス戦で記録が途絶えました。ただ、あの試合に関しては私にも責任があります。3点ビハインドで最終回を迎えたのですが、9回表に打線が追いつき9回裏へ。栗林の出番となるわけですが、この試合に限っては準備ができていませんでした。もちろん9回表の同点、逆転を期待していましたが、3点差を追いつく展開を、私も栗林も現実的に考えていない部分がありました。それが準備不足につながってしまいました。

 お互いに反省して、今後はどんな状況であろうとルーティンだけは確実にやっておこうという話をしました。言い換えると、打たれた原因がハッキリしていました。準備万端で登板し、救援に失敗したら落胆も大きいと思うのですが、反省点がやるべきことをやっていなかったと明確だったので、次の登板に向けて、気持ちは切り替えやすかったのではないかと思います。

 実際、次の登板(6月15日・西武戦)では3者連続三振ですからね。本当に1年目なのかと思うほど、技術も気持ちも全てが完成した投手だと思いますね。来年以降もカープに必要な投手であることは間違いないので、ケガを招かないようにコミュニケーションをとっていきたいと思います。

 栗林と同じように、私もプロ1年目にクローザーを経験させてもらいましたが、比べものにならないほど、栗林の成績は飛び抜けています。ここまで失敗が1度だけですから。投手陣を預かるコーチとしてはいけないのかもしれませんが、栗林を9回のマウンドに送り出したら仕事は終わったと思っています。今では次の投手の心配をせずに安心して彼の投球を見ています。

◆プロフィール
永川勝浩(ながかわ かつひろ)
広島東洋カープ・一軍投手コーチ
1980年12月14日生・広島県出身。2002年自由枠でカープに入団。1年目から力強い直球と落差の大きいフォークを武器に25セーブを記録。2007年からは3年連続で30セーブ以上をマークした。2019年に現役引退し、2020年からカープの二軍投手コーチに就任。今季から一軍投手コーチとして、世代交代が進む投手陣を支えている。