優勝から遠ざかって、10数年になるのかな(91年の優勝を最後に低迷期に突入)。年々、チームづくりが難しくなっているのは確かです。フリーエージェントの問題がまずあって、これがチーム間の不均衡を生んでいる。選手というのはどうしても「自分を高く評価してくれる」球団に移っていきますから、戦力が偏ってしまう。

 こういうときこそ方針を話し合わないといけません。チームとしてどういう野球を目指すか。それをはっきりさせないと。例えば今年、足を使って数少ないチャンスをものにする、という野球をやって中日が優勝しました。昨年取材をしながら、なんとなく自分がやってきた野球に似ているなと思っていました。

 私が監督をしていたときも、機動力を重視しました。山本浩二と衣笠祥雄の両主軸はけっして足が速くない。でも彼らには意欲があった。常に次の塁を狙って、僕が盗塁のサインを出さないと、「サイン出しなさいよ」とアピールするくらい、気持ちを前面に出して戦ってくれました。中心選手がそうだから、脇を固める選手たちも一生懸命にプレーしてくれた。

 それに加えて、高橋慶彦。彼は当初、ピッチャーとして入ってきました。しかし、スカウトの話では「足があり肩がある」。それで内野をやらせてみることにした。最初はまったくひどいもので、ゴロは捕れないし、スナップスローもできない。コーチもお手上げだった。

 でも、彼の足が生かせれば、チームにとってものすごくプラスになる。だから私は彼にこう言ったんです。「スイッチヒッターをやってみるか。それができればポジションを任すよ」って。そしたら慶彦が「はい」といって、それから猛練習に励んだ。本当によく練習してくれました。打つだけではなく守ることも、これくらい練習した子は他にいないでしょう。

 それでショートという一番難しいポジションを奪った。慶彦が成功したからこそ、今度は山崎隆造に「お前もスイッチをやりなさい」と檄を飛ばしたんです。それに山崎も応えてくれたんですね。まさに選手の努力と一緒に汗を流してくれたコーチがいたからこそできたチームづくりです。