監督は長く続けるものではない

 チームには数十人の選手がいるが、彼らは現場のトップである監督とさまざまな関係を築いている。監督のことをよく思わない選手もいれば、監督のお気に入りの選手もいるし、全然目立たない選手もいる。だが監督が代わった途端、彼らにはもう一度自分の技術を売り込むチャンスが与えられる。そこにいる選手自体は変わらないのに、序列もモチベーションもリセットされ、チームはゼロからの構築が始まる。

 そんなときは「もう俺はダメかな……」と思っていた選手も最後のチャンスと思って頑張れたりするものだ。キャンプで意地を見せて良いプレーを披露して、そのまま一軍入りして活躍―それが起こりうるのが監督交代というタイミングなのである。

 だから僕は監督というのは長く続けるものではないと思っている。特に現有戦力を刺激して、選手の能力を底上げしていかなければならないカープのような球団において、マンネリは絶対避けなければいけないことだ。

 そういう意味で僕が就任した2010年は、梵(英心)が復活、廣瀬(純)も規定打席到達……そうやって少しずつ新しいチームへの脱却が進んでいった年だったと言える。

●野村謙二郎 のむらけんじろう
1966年9月19日生、大分県出身。88年ドラフト1位でカープに入団。プロ2年目にショートの定位置を奪い盗塁王を獲得。翌91年は初の3割をマークし、2年連続盗塁王に輝くなどリーグ優勝に大きく貢献した。95年には打率.315、32本塁打、30盗塁でトリプルスリーを達成。2000安打を達成した05年限りで引退。10年にカープの一軍監督に就任し、積極的に若手を起用13年にはチームを初のクライマックス・シリーズに導いた。14年限りで監督を退任。現在はプロ野球解説者として活躍中。