殴り込みのような勢いで突っ込んでいった

 監督就任当初はとにかく気合が入っていた。余裕などまったくない。ただ「俺がこのチームを変えてやる!」という気持ちだけ。心の中は「こんな野球をやっていて恥ずかしくないのか!」という怒りや情けなさ、そしてチームに対する危機感でいっぱいだった。だから殴り込みのような勢いで選手の中に突っ込んでいった。

 最初のキャンプで意識したのは、まずはチームにインパクトを与えることだった。これまでのスタイルに慣れた選手たちをショック療法で目覚めさせる。「新しい監督は怖いぞ。こんなことをしていたら勝てないぞ」という意識を叩き込んで、「これはマズい。気合いを入れてやらないと……」と焦らせる。そのインパクトだけをひたすら考えていた。

 たとえるなら校内暴力で荒れている学校に「おまえら許さんぞ!」と叫びながら突入し、いきなり竹刀で教壇をバーンと叩くような感じかもしれない。熱血教師というと聞こえはいいが、どちらかというと暴走教師に近いかもしれない。「俺はこれまでの教師とは違うぞ!」―それに近いことを、何度もしゃべったような気がする。

 監督をやる上でコーチ経験のなさは、まったく不安に思わなかった。野球の勉強は選手時代からやっていたし、いろんな指導者の元で指導法について学んでいた自負もあった。当時のことを振り返って思うのが「気持ちが150%くらい入りすぎていたな」ということだ。実際この2010年を終えて最初に出てきた反省が「俺は力み過ぎている」ということだった。

 監督1年目ということで選手も当然構えて見ているし、こっちも構えて選手を見ている。親しい方からは、「謙二郎、力み過ぎてるんじゃないか?」とアドバイスされたが、「そんなことはないです」と返してきた。しかしひとりになって思い出すと「確かにそうだったな」と思い当たるフシがある。

 そんな監督1年生だったが、選手にとっては大きな転機になるはずだという期待感も同時にあった。選手が一番変われるタイミングとは監督が代わったタイミングであり、突然飛躍する選手が現れるのもそのタイミングだということが僕には経験的にわかっていた。