◆本から生まれた“勇気の連鎖”

 岩田稔選手(元阪神)は大阪桐蔭高2年の時、風邪を引いた際のウイルス感染が原因で1型糖尿病を発症しました。

 病気が発覚して「もう野球ができなくなるかもしれない」と不安に襲われたり、病気を理由に社会人チームから内定を取り消されたりしたこともあったそうですが、「病気になった事実は変えられない。やるしかない」と奮起した結果、見事にプロ入りの切符をつかみました。

 1型糖尿病は普通に生活を送っていてもかかる可能性がありますが、生活習慣病である2型との違いがあまり知られていないために「不摂生だからだ」と非難されたり、インスリン注射が学校や会社などでの差別につながったりすることもあるそうです。

 岩田選手は「プロ野球選手という立場を活用し、この病気への理解を促して差別をなくしたい」「自分が活躍することで病気でも夢をあきらめない気持ちを患者の子どもたちに持ってほしい」と語っていました。

 2011年からは、糖尿病検査装置などを病院や研究機関に提供しているアークレイ株式会社とともに『IWATA PROJECT21』を発足し、成績連動型の寄付や1型糖尿病患者の子どもたちとの交流、啓発イベントの出演やクラウドファンディングへの返礼品提供など、同じ1型糖尿病を抱える患者さんのための支援をさまざまな形で行ってきました。

 そして、さらなる啓発のためにBLF(NPO法人ベースボール・レジェンド・ファウンデーション)で、先述の出版をお手伝いさせていただいたのですが、出版後には1型糖尿病のお子さんを持つ親御さんや別の病気と闘うお子さんから「本を読んで気持ちが前向きになった」「頑張ろうと勇気が湧いた」というメッセージをたくさんいただきました。

 また、1型糖尿病の高校球児が岩田選手の本に勇気づけられて野球を頑張ったという新聞記事も目にしました。

 実は岩田選手も1型糖尿病を発症した直後に、同じ病を抱えながらも日本のプロ野球やメジャーリーグで活躍したビル・ガリクソン選手の著書を読んで勇気をもらったそうです。「自分も同じような存在になりたい」と奮起した岩田選手、同じ役割を担えたことでその夢を見事に叶えることができました。

 現役を引退しても、岩田選手が伝えたいこと、伝えられることはきっとまだたくさんあるはずです。夢を叶えた岩田選手だからこそのメッセージ、これからもたくさん発信していってほしいなと思います。

 

岡田真理(おかだ・まり)
フリーライターとしてプロ野球選手のインタビューやスポーツコラムを執筆する傍ら、BLF代表として選手参加のチャリティーイベントやひとり親家庭の球児支援を実施。出身県の静岡ではプロ野球選手の県人会を立ち上げ、野球を通じた地域振興を行う。著書に「野球で、人を救おう」(角川書店)。