2010年から5年間カープを率い、25年ぶりの優勝への礎を築いた野村謙二郎元監督。この特集では監督を退任した直後に出版された野村氏初の著書『変わるしかなかった』を順次掲載し、その苦闘の日々を改めて振り返る。
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 最終的に僕の監督としての最初のシーズンは悲惨な成績に終わった。借金26。優勝した中日には21・5ゲーム差をつけられての5位という結果である。走る野球を目指したものの長打力不足は明らかだった。助っ人外国人選手は機能せず、安打の割には得点が少ない。そして投手陣の崩壊具合は目を覆いたくなるほどだ。

 1年間を終えて、監督という仕事は想像を絶するくらい大変だと思った。一生懸命やったことがまったく報われない。それは他のチームも一生懸命やっているからで、だとしたらどうしたらいいんだろう、自分も選手もこれまでのやり方から変わっていかなければいけないのではないか……そんなふうに考えるようになった。

 1年間、悔しくて悔しくて仕方なかった。オーダーにしろ作戦にしろ寝る間を惜しんで考えたのに、どれもまともに機能しない。何度も「俺は馬鹿なんじゃないか?」と自分自身を疑ったし、球場ではヤジられ、メディアからはこっぴどく叩かれた。連敗を重ねるたびに、これ以上続けてはいけないんじゃないかと、なけなしの自信を喪失した。

 僕は1年契約だったので、シーズン終了後、オーナーに「もう続けていけません」と正直に告白した。「こんな成績で申し訳ありません」と神妙に謝ったら、逆に「優勝を掲げて臨んだのに、こんな結果で悔しくないのか?」と言われた。

 それで僕の心に火が点いた。子どもの頃の壁あてと同じだ。僕は地面に叩きつけられ、なにくそと思うことによって猛烈に奮い立つ。翌年の契約書にサインした瞬間にはもう、迷いも弱音も消えていた。僕はそれまでさんざん悩んでいても、一線を引いた瞬間に割り切れるタイプなのだ。契約書にサインした瞬間、もう頭は2011年のことでいっぱいになっていた。