開幕ダッシュに成功した2022年のカープ。シーズン前の下馬評を覆すチームの根幹は、「スカウティング」と「育成」であろう。即戦力ルーキーが躍動し、叩き上げの下位指名選手も力強い全力プレーを見せている。

カープスカウト統括部長の苑田聡彦氏。

 そんなカープの「スカウティング」について、3月30日に発売された新刊『眼力 カープスカウト 時代を貫く“惚れる力”』の著者である坂上俊次氏(中国放送)が、“流しのブルペンキャッチャー”としてドラフト候補選手の球を受けながら取材するスポーツジャーナリストの安倍昌彦氏とカープドラフト、スカウトについて対談を展開した。

 連載1回目の今回は、カープ苑田聡彦スカウト統括部長にまつわる話題をお送りする。

◆金本、黒田、會澤に感じた匂い

坂上「改めて感じますが、プロ野球スカウトの世界は面白いですね」

安倍「話が尽きないと言いますか、テーマも尽きないと思いますし、一旦スカウトになると、スカウトの仕事にハマる方が結構いらっしゃるんですよ。僕なんてスカウトになりたくて、もう40数年この仕事をやっているわけですから」

坂上「まだスカウトになりたいと思っていらっしゃるんですか?」

安倍「もちろんですよ(笑)」

坂上「すごいですね!」

安倍「だって、カープの苑田聡彦さん(スカウト統括部長)は77歳で現役ですよ。僕は10個も下ですから、追いかけるにはまだ十分時間はあります(笑)」

坂上「私も安倍さんを見習って入団前の選手などに取材に行きますが、選手と話ができるじゃないですか。ですが、スカウトの方々は十分な話ができない中で、プレーだけを見て、それだけで評価する。これは途方もない作業だと思いますし、目だけで勝負できるのはすごいですね」

安倍「じっくり腰を据えて会話をすることは、禁止されていますからね。見て、推し量るという部分が大事になってきます。いつも勝手に言っているんですけど、良い選手っていうのは、良い匂いがするんです。良い匂いを感じられる鼻があるかないかだと思います。苑田さんなんて、良い匂いを感じる鼻がやっぱり抜群なんじゃないでしょうか」

坂上「黒田博樹投手が逆指名でカープに(1996年ドラフト2位)、というのも有名な話ですよね。あとは會澤翼選手(2006年高校生ドラフト3巡目)。水戸短大府高の時から、きっちり目をつけていて、2006年のドラフトでは前田健太投手(ツインズ)に目が行っていましたが、その次の指名で會澤選手。僕はこれはすごいなと思うんです」

安倍「特に會澤選手は高校時代、今の言葉でいうと“ヤンチャ”というんですか? 短ランを着ていた学生でしたから。そういう先入観を持った球団もあったようです。逆に苑田さんの場合は「それくらいの度胸”、“腹が据わった部分”がないと、プロのキャッチャーなんかやっていけないんだ」と。ご自身が、これまでの野球経験の中で恐らくどこかで実感されたことがあるのだと思うんです。そういうところから、會澤選手の将来性を嗅ぎ取る鼻がビビビッときたのではないかと思いました」

坂上「それこそ、“鼻”だなと思ったのが、苑田スカウトが金本知憲選手(元カープ、阪神)を東北福祉大で見た時に、前情報があって金本選手を見に行ったのではなく、ケガをされていて、椅子に座ってティー打撃をやっていた時、その雰囲気を見て『この選手だ!』とその場で決めたと。『走力や守備は見れないじゃないですか?』と聞くと、『いやいや、座って故障している時のティー打撃を、あれだけ一生懸命やる人間は他もちゃんとやるはずだ』と。これを聞いた時に、スカウトってこういうものなのかなと思いました。一を聞いて十を知るのではなくて、一を見れば自ずと十が推測できてくるのかなと思いましたね」

安倍「故障している時にスカウトの方が来る。自分も目立ちたいと思うから、たとえばわざと椅子に座って、魅せるための練習をする選手もいるんです。だけど、そこは見極めなくてはいけないわけです。学生だって、プロに行きたいと思えばしたたかですから。スカウトがそばで見ていると思えば、自分がケガをして不自由な身体であっても、何らかのアピールをしようとするんですが、それがアピールなのか、スカウトである自分がその場にいなくても、その選手はそれをやっていたのか? の見分けです。そういうところが苑田さんの場合は見抜ける。“騙されないぞ”というのもありますからね」

(第二回に続く)