昨年、先発として好投するも、勝ち星がつかなかった約3カ月間の姿。プロ1年目から先発ローテを守り、結果を残し続ける理由。そして素顔ー。この連載では、右腕を間近で見続けたキーマンが回想する、森下暢仁の進化の秘密に迫る。

【キーマンが明かす秘話・宇草孔基】

カープ・森下暢仁

 森下と同年代で、同じ年にカープに入団。ドラフト1位が森下で、ドラフト2位が宇草。お互いに影響を受けながら歩むプロの道、宇草孔基が語る、背番号18とのエピソード。

◆森下がもたらす不思議な力

 森下暢仁と同学年の選手はカープに5人(高橋樹也、宇草孔基、石原貴規、森翔平、中村健人)いる。なかでも宇草は森下との縁が深い。大学卒業後にドラフト2位で入団。1位指名の森下から受ける影響を、以前こう語っていた。

「暢仁は誰が見てもすごい投手だと思います。マウンドに上がると気持ちの強さを感じる投手なので、こちらも見ていてパワーをもらいます。東京五輪の決勝戦では、日本代表の先発を任されましたから本当にすごいですよ。暢仁は、何年か先の未来を見据えているような気がするんです。僕自身、プロ入り当初は右も左も分からないなかやってきて、2年目で、少しずつですがいろいろなものが見えてきました。ただ、暢仁は1年目から具体的なビジョンを持って野球に向き合っているような感じがします。そういう面も含めてすごい選手ですよ。同じ年にカープに入団した暢仁と(石原)貴規は、僕にとって大きな存在です。ライバルという意識はありませんが、とにかく良い刺激をもらっています。一緒に同じ一軍の舞台で活躍したいですから、僕も負けないようにしないといけません」

 宇草と森下のカープでの〝縁〟を語るうえで外せない試合がある。2021年10月10日の巨人戦(マツダスタジアム)。この試合、宇草は『1番・センター』でスタメン出場した。

「この試合のことはよく覚えています。暢仁が先発する試合ですし一層気合いが入りました。また、捕手のスタメンが貴規だったのもうれしかったですね。〝なんとしても勝ちたい〟と意気込み挑んだ試合でした」

 この時期、森下は先発として好投するも勝てない試合が続いていた。10月に一軍昇格した同学年の宇草にとっては、昇格後初となる、森下が先発する試合でのスタメン。それだけに森下を助けたいという思いもあったはずだ。

「後半戦、暢仁に白星はついていませんでしたが、先発として試合はしっかりとつくってくれていました。何よりも〝勝つんだ〟という気持ちが見ている側にも伝わってくるのが暢仁なんです。ベンチにいても、けっこう声を出すんですよね。そういった姿勢にも勇気をもらいます。だからこそ、こちらも〝勝ちたい〟という気持ちがより一層湧いてきますし、10日の試合も〝勝たせてやりたい〟とシンプルにそう思いました」

 結果的に森下は7月14日以来となる7勝目、宇草は猛打賞を記録した。そして試合後には2人でヒーローインタビューに登場し、スタンドのカープファンを湧かせた。

2021年10月10日の巨人戦でお立ち台に上がった宇草孔基(左)と森下暢仁

 余談だが、2人が一緒にお立ち台に上がるのはこの日が2回目。1回目はちょうど一年前の2020年10月10日。これもまた、同学年ならではの縁の一つなのかもしれない。

 ちなみに……ユニホームを脱いだ、オフの時の森下はどんな青年か。同学年だからこそ知る森下の素顔を、宇草はこう表現する。

「暢仁はファンの方からすると、見た目の通り、可愛らしい好青年に映っているんじゃないかと思いますが、実はすごく漢って感じの性格です(笑)。とにかく負けん気が強いですね」

 昨季、一軍で数多くの経験を詰んだ宇草は、捕手の石原と共に、今季は開幕から一軍での飛躍が期待された。しかし、石原は開幕一軍メンバーから外れ、宇草は4月11日に一軍登録を抹消された。投手・森下、捕手・石原、そしてセンター・宇草がスタメンに名を連ねる〝同年代によるセンターライン〟。昨年は3度実現したが、今年の公式戦ではまだ実現していない。

「暢仁は間違いなく一軍で活躍するでしょうから、なんとかしがみついていきたいです」

 何年経っても同期入団は特別な存在に違いない。森下が一軍の舞台で奮闘する姿は、同年代の選手に大きな影響と刺激を与えている。