広島県高校野球界のみならず、全国的にも強豪校として知られる広陵野球部。
甲子園常連校を長年率いる中井哲之監督の教え子には、多くのプロ野球選手が存在する。 ここでは改めて名将が考える指導論と、カープで活躍する教え子たちへの思いを聞いた。
◆いつも気になる教え子たち。彼らのプレーしか見ていない
―現在カープには5人の広陵卒業生が現役選手として在籍しています。改めて各選手について伺いたいのですが、2003年春に全国制覇を果たした白濱裕太選手について思い出を聞かせてください。
「彼はミーティングも率先してやっていましたね。私が部屋に入ったら、すでにホワイトボードを使って、それぞれ投手や打者の特徴を書いて説明していて、準備万端な選手でした。(中村)奨成のような運動能力はなかったかもしれませんが、丁寧さはキャッチャーらしいですよね。また黒子に徹することができました。(野村)祐輔がバリバリ一軍で投げていても、ビデオを見ながら『祐輔、こうなっているんじゃないか?こうしたらいいんじゃないか?』というアドバイスを送っていたようです。祐輔の調子の良かったときのこと、脳裏に残っていることを伝えたり、相手のプライドを傷つけないように、上手に伝えることができるんです。とても誠実な選手だと思います。さまざまな苦労をして勉強をしている彼は、この先もいろんな形でカープを支えられる選手ではないかと思います」
―次に、名前が上がった野村祐輔投手についてお聞きします。当時からクレバーな投手だったのでしょうか?
「高校時代にもっと速い球を投げようと思えば、投げられたのかもしれません。当時はまだまだ体も細かったですが『どうやったら勝てるか。どうやったら連戦を投げ切れるか』ということを、普段から考えていたと思います。自分の世界観を持っていて『何を考えているのか分からない』ということもあるかもしれませんが、優しくて良い子です。良い意味で投手タイプだと思います」
―今年一軍で活躍している上本崇司選手、中田廉投手はいずれも2009年の卒業生で同級生です。
「そうですね。崇司は、大きな試合になればなるほど力を発揮する子でしたし、張り切る子でしたね。甲子園でホームランを打ったり、結果も出していました。ファンのみなさまを楽しませているあのパフォーマンスは、あくまでもプロとしてやっていますよね。本来の崇司はシャイで、礼儀正しくて、人に自分のことを伝える時は、謙虚な子です。新井貴浩選手のモノマネにしても、うまいじゃないですか。楽しいからついついやってくれと言うんですけど、彼も32歳なので『誰か他の人にやってくれ』と思いますよね。でも崇司よりうまいやつはいないでしょうね(笑)」
―中田投手ですが、ここ数年は苦しいシーズンが続いています。
「廉はすごく、ストイックな練習をしますよね。思考錯誤しながら、常に模索して努力をしています。いろんなことを吸収しようとしているのですが、自分のものが見つけきれない、研究熱心さが邪魔をしているところもあるかもしれません。高校のときはそういう風には見えなかったですけどね(苦笑)。「打てるものなら打て」というような精神的な開き直り、強気のハートを持って、挑んでほしいですね」
―最後に中村奨成選手についてです。5選手の中でいちばん若い選手ですが、3年夏の甲子園でホームラン記録を塗り替えるなど、注目を浴びていました。
「彼はカープで現役としてプレーしている卒業生の中では一番若いですから、気になるし心配です(苦笑)。足も、肩も、運動神経もカープで頑張っている現役卒業生の中ではズバ抜けていると思います。甲子園で成績を残し、高校生でプロに行った分、注目度が違いますよね。それだけに苦労した面もあったかと思います。その中で、プロのすごさを感じながら死に物狂いで頑張っていますね。今は捕手、外野を守っていますが、それは彼の運動能力を見てのことだと思います。ただどちらにしても、レギュラーになれるだけの素材はあるとは思います」
―お話を伺っていると、みなさんへの愛情を感じます。普段のプレーはご覧になっているのでしょうか?
「いつも気になっていますし、私は教え子のプレーしか見ないですね。またカープ以外の各チームにも教え子がいますが、先発、ベンチメンバーなどは試合前に分かるので、その都度交代したらチャンネルを変えて見ています。彼らも私がいつも見ていると知っているんじゃないですかね。打率も二軍での成績もチェックして言いますよ(笑)」
中井哲之◎なかいてつゆき
1962年7月6日、広島県出身
広陵高、大商大を経て、1985年に広陵に赴任し、硬式野球部副部長を務める。1990年に27歳で野球部監督に就任すると、翌1991年には、65年ぶりとなる春の選抜甲子園で全国制覇を達成。2003年にも元巨人・西村健太朗、白濱裕太らを率いて全国制覇した。夏の甲子園では、2007年、2017年と2度チームを準優勝に導いた。これまでの監督人生で春12回、夏8回甲子園出場し、通算成績は34勝18敗1分け。現在は同校で新たに創部された女子硬式野球部の総監督も兼任している。