◆スポーツの力で地域貢献を

坂上「神田代表はSAHの取り組みを通して、広島のたくさんのスポーツに触れてこられたと思うのですが、広島という街のポテンシャルを改めて感じるのは、どういった部分でしょうか」

神田「僕は九州出身なのですが、広島のように『海があって、山も近い、その間を川がつないでいる』という環境は、なかなか他県では見られないと思います。そうした自然の中にスポーツができる環境があるので、県全体がどんどんスポーツで盛り上がっていける可能性があると感じています。SAHの取組の一つである『わがまちスポーツ』は地域のスポーツ資源を活かした取り組みで、三次市と廿日市市では女子野球に取り組み、国際大会『WBSC女子野球ワールドカップ グループラウンドB』の誘致や、地元の社会人チームや高校部活動との連携をきっかけとした地域おこしの成功事例が生まれてきていますね」

坂上「スポーツは、見る側としては競技力の部分に関心が向きがちですが、竹内選手が競技の普及や地域に対する恩返しといったところに関心を持つようになったきっかけは、何だったのでしょうか」

竹内「表現が適切かどうかはわからないのですが、地域貢献、社会貢献というのは、そんなに簡単にできるものではないと思っています。誰しも、自分の人生、自分の目標を全うすることに精一杯になって、地域や社会といった面に目が向く人たちは多くはないと思うんです。心にも、色々なところにも余裕がなければできないと思っていて、どうやったらそれができるんだろうと思った時に、『このまちに何があったら、自分もうれしいだろう』と考えるようになりました。自分のうれしいことや環境で、他の人たちにとっても良いことは何だろうと。そういう意味では、最初のスタートはどちらかというと自分発信でした。このまちに足りていないものは何かを考えて、その結果、みんなにとっても自分にとっても良いものを考えた時に、もっと前向きにいろいろな貢献活動ができるのではないかというスタンスで、考えるようになりました」

広島ガス スキー部所属・竹内智香選手

坂上「自分の課題解決や、自分の喜びをシェアするような感覚でしょうか」

竹内「周りを見ていきなり『じゃあこの貢献活動をやろう』と思っても、なかなか何をするべきか見つけられないと思うんです。でも、ふと自分を顧みた時に『このまちにはトレーニングできる環境がないな』だとか、『運動できる環境がないな』だとか、そういうことに気がつくんです。では、そこから何を変えていけるのか。そう考えると、意外と道は拓けていくというか……道はあるんだな、ということを最近感じています」

坂上「そうした取り組みをしなくても、アスリートとしての競技力は高められるのではないかと思います。それでもなお、地域貢献活動や普及活動に取り組むという、その原動力はどこから来ているのでしょうか」

竹内「五輪に何度も出場してメダルを獲ることができても、それに反して思い描いていた成功は手にできなかったというのが正直な気持ちです。きっと日本では、五輪というのは打ち上げ花火のようなもので、一瞬は盛り上がるのですが、そこに他の国のような価値はないのではないかと感じました。ただそれをマイナスに捉えるのではなく、獲得したメダルや五輪・W杯での経験値をどうすればより華やかなものとして活かしていけるだろうかと考えた時、選手自身が自分でいろいろトッピングをすることで、メダルや経験がより意味のあるものになるのではないかなと思いました。私は、せっかく経験してきた五輪やメダルを価値のあるもの、記憶に残るものにしていきたいと思っています。ただそれは、成績やメダルにすがるのではなくて、どう活かしていけるか、という部分が重要なのではないかと思います」

坂上「我々は『何大会連続出場』であったり、『メダルをいくつ獲った』といったところに目を向けてしまいがちですが、竹内選手が周りの方から愛されるのは、結果や成績だけではないということなのでしょうね」

湯﨑「竹内選手がずっとおっしゃっているのは、スノーボードを広めたいという思いです。これは、初めてお会いした時からずっとおっしゃっていますよね」

竹内「はい、そうですね」

湯﨑「先ほどおっしゃったように、ソチ五輪で銀メダルを獲得された時など、競技自体も非常に脚光を浴びた時期もあったと思います。では、プレー人口が大きく増えたかというと、必ずしもそうではありません。そこで『仕方がないね』と諦めるのではなく、ではプレー人口を増やすために何ができるのかということを考え、取り組んでいただいている。そうしたひたむきな姿は、応援したくなるというよりも、むしろこちらが応援してもらっているような気持ちにもなります。広島の子どもたちとも触れ合っていただいていますし、我々ができることは、一緒にやっていきたいなと感じます」

竹内「あとは、常々感じていたことでもあるのですが、我々アスリートは『楽しみたい』などの言葉を発しづらい中で育ってきたように思います。ただ最近になって、自分たちもアスリートとして仕事を全うしながら、いろいろなことをやっても良いのではないかと思うようになりました。そう考えることで、少し楽になれた自分がいますね」

神田「それはまさしくスポーツ界全体の課題でもあると思います。東京五輪でもありましたが、失敗したとしても、チャレンジしたことに対して皆で称え合うような姿勢が、これからは大切になってくるのではないかと思っています。スポーツが、辛い、苦しいだけの世界になってしまうと、それ以上広がっていかないと思うんです。どちらかというと、先ほど竹内選手のお話にもあったように、『私も楽しい、だからシェアして、あなたも楽しんでほしい』というサイクルが生み出せると良いですよね。いまSAHが取り組んでいる『わがまちスポーツ』や『TeamWISH』も、そうしたひとつのきっかけになっていけば良いと思っています」