2023年6月16日に流れた突然の訃報は、多くの悲しみに暮れ、大エースの残した偉業を振り返った。今、カープのエースとしてマウンドを引き継がせるべき存在に、北別府学は厳しくもたくさんの愛情を注いだ。「大瀬良の大ファンだから」その一言で、全てが完結する。大瀬良大地が受け取った大切なバトン。

投手陣を支える柱として、北別府からの言葉は大きな糧になる

◆その影へ、一歩でも近づけるように

 投手王国と言われたカープを支えたエース北別府さんについて、同じ投手として考えたとき、まず北別府さんの持っておられる213勝という記録は、アマチュアの時代に外から感じていたすごさと、実際プロとしてやっていくなかで感じるすごさとでは、 全く別物でした。計り知れない偉大な記録というか、ただただ、すごいという思いだけです。

 さらに開幕投手を9回も務められ、11年連続の二桁勝利。北別府さんの通算成績を見てみると、とてもじゃないけど今の僕とは比べ物にならない、とんでもない大投手です。僕もこれまで開幕投手を務めさせていただきましたが、本当にとんでもないことだと思います。僕は一番脂が乗り始めたぐらいの年齢から任せていただけるようになりましたが、9年連続というと、北別府さんが若い時からチームの信頼を得ていた証ですからね。ずっと投手陣のトップでいなければ任せてもらえません。

 それに加えて11年連続の二桁勝利、10年間ローテーションを守るだけでも大変なことなのに、やはり素直にすごいなと思います。それに213勝という勝ち星を考えた時、現代ではなかなか実現できない数字になってしまいました。200勝でさえなかなか難しいという数字になっています。だから正直、ピンともこない、そのくらいすごい勝ち星です。僕なんてあと、これまでの3倍くらい勝たないと追いつけません……。

 でもやはり、すごいなと憧れるだけでなく、そういった大先輩方に少しでも近づきたいとも思っています。もちろん今の僕には、北別府さんの影さえも見えないくらい、はるか上の方ですが『頑張りたいな、一歩一歩近づきたいな』と思わせていただける方です。

 現役時代の北別府さんの動画などを見ると、スピード表示は140キロくらいだったはずですが、さまざまな球種を思ったようにコーナーに投げ分けられるコントロールと、打者との駆け引きの中で勝負していく投球術は、映像をからもすごさが伝わります。打者に気持ち良くスイングさせていないというところに、投手としてのレベルの高さを感じますし、打者からは嫌な投手だと思われていたでしょう。

 懐ギリギリにシュートを食い込ませてのけぞらせた後に、 アウトコース一杯に真っ直ぐを決めてしまう。抜けたボールに見せかけて本当はきっちりとそこを狙って投げながら、最後はピタッと打者の手の出ないところに投げてアウトを取る。そういう映像をよく見ていました。あの北別府さんのコントロールは、参考にならないくらいすごいなと思っていました。

大瀬良大地 ●おおせらだいち
1991年6月17日生、長崎県出身。長崎日大高-九州共立大-広島(2013年ドラフト1位)。2014年に入団し、4月2日のヤクルト戦でプロ初登板。ルーキーながらも、この年は10勝(8敗)をマークして新人王に輝く。以降、10シーズンに渡り先発ローテーションを担い続ける、カープ投手陣の大黒柱。近年はケガの影響もあり、シーズンを通して一軍で投げ続けることが難しい悔しいシーズンが続いているが、先発投手としての実力は誰もが認めるところ。コンディションを万全にして、投手陣をさらにけん引してほしい。

 
広島アスリートマガジン8月号は、「追悼特別特集 北別府 学 ありがとう 20世紀最後の200勝投手」カープが誇る大エース北別府学氏が残した偉業の数々を振り返りながら、強いカープを共につくりあげた仲間たちが語るその姿をお届けします。