スポットライトを浴びた選手たちにも訪れる『現役引退』という転機。現在セカンドキャリアを歩む元アスリートたちは、当時どのような思いでセカンドキャリアに舵を切ったのか。本連載では、新たな舞台に飛び込んだ元アスリートの今に迫る。

 今回はプロ野球・埼玉西武ライオンズにドラフト1位で入団し、その後は栃木ゴールデンブレーブス、エイジェック社会人野球部を経て、現在エイジェック・ユースで監督を務める中﨑雄太さんに話を伺った。

エイジェック・ユースの監督を務める元・西武の中﨑雄太さん

◆“諦めさせる”ことも指導の一つ

―高卒ドラフト1位でプロ入りし、華々しくプロ野球キャリアをスタートされました。西武時代を振り返るといかがですか?

「球団に期待をしていただいて入団したのに結果が出せなかったと言う思いに尽きます。ケガもありましたが、やはりプロは結果が全てです。ただ、僕の人生で振り返ると、そのレベルや世界を体感させていただいたという点では経験を積むことができ良かったと思います」

―西武時代、ケガ明けからはサイドスローに転向されました。

「当時投手コーチをされていた、清川栄治コーチと相談して、サイドスローに転向しました。変更してからは、“画面から消えるピッチャー”と少し話題にもなったのですが、実は最初はそんなフォームじゃなかったんです。ただ、せっかくのチャレンジなら大胆に行こうかなと思いあのフォームに辿り着きました」

―NPBで8年プレーし、戦力外通告を受けました。その後の進路はどのように決められましたか?

「球団から電話を受けて、涌井さん(秀章・現中日)や片岡さん(治大・現・ジャイアンツU15ジュニアユース監督)にお電話させていただきました。また、両親とも話をして『まだ悔いがあるならトライアウトを受けてみたら?』という言葉もあり、トライアウトを受ける決心をしました」

―トライアウトを経て、2017年にBCリーグ・栃木ゴールデンブレーブスに入団されました。新たなチームでのプレーに不安などはありましたか?

「“プロ野球”という位置付けで、野球をすることに変わりはないので、不安は正直ありませんでした。決断する上で1番大きかったことは、選手兼コーチとしてお話をいただいたことです。自分自身、将来的に指導者になりたいという気持ちがあったので、とてもありがたいお話でした」

―1年間の独立リーグ生活を経て、次は社会人野球チームのエイジェック硬式野球部に選手兼コーチとして加入されました。

「1年間、独立リーグでプレーをし、シーズンオフにエイジェックが、社会人野球部を発足するお話を聞きました。そこで、エイジェックの古後昌彦代表とお話しをさせていただき、今度は社会人野球チームの選手兼コーチのお話しをいただいたというのがきっかけでした」

―そこから中﨑さんは3年間、社会人チームの指導者としての生活が始まりました。その過程では、引退する選手を送り出す側にもなったかと思いますが、振り返るといかがですか?

「指導者として『その選手が何を目指している選手なのか』で接し方が変わると思っています。NPBを目指して野球をしている選手なのか、それとも今を全力でプレーしたいのかなど人によって様々です。私としてはその見極めと接し方に気を配りながらも、その選手の人生を考えた時に、“諦めさせる”ことも指導の一つだと考え臨んでいました」

―中﨑さんが退団した翌年の2021年には、エイジェックはチーム初となる都市対抗野球に出場しました。

「当時はすでにアカデミー業務に携わっていたため、スケジュールの都合、現地へ応援に行くことは出来ませんでしたが、中継を見ていました。指導者として立ち上げから手がけたチームが、3年間の土台を築き、選手たちが全力で取り組みつかんだ舞台なので、素直にうれしかったですね」

ーアカデミー事業の話が挙がりましたが、現在はエイジェック・ユース(栃木県中学女子硬式野球クラブ)の監督を務められています。

「指導者であることは一緒ですが、気に掛けるポイントが全く違うので最初は苦労しました。先ほど社会人野球は“諦めさせるのも指導”と言いましたが、そもそもアカデミーとしては野球を好きになってもらうフェーズです。また、ユースは思春期年代の女子学生なので伝え方などもポイントだと思います。今の時代や任されている年代に合わせた指導をしながら、中途半端にならないようにというのは、社会人より上の年代の指導者との大きな差だと感じます」

―そのような差がある中で、共通点などもあるのでしょうか?

「全力で指導にあたるというのは当然のことながら、どこにいても変わりません。指導法などはチームや個人で変わりますが、心の持ち方としては選手にとっての1年、1年を無駄にさせないような指導をすること、というのは共通しています」

―アスリートである以上、現役を引退するということはいつか訪れることだと思います。今後セカンドキャリアを歩むことになる選手たちへ伝えたいことをお聞かせください。

「現役時代は、不安になる時もあると思いますが、その時を全力でプレーすることを心がけてほしいです。もしかしたらその全力で臨んだ結果が成績につながり、自身のキャリアを助けることになるかもしれません。とにかく今を大事にして次の夢をつかんでほしいと思います」