5月19日、京都戦でハットトリックを達成した新井直人。今季加入ながら、広島デビュー戦の鮮烈ゴールでサポーターの心をつかんだDFは、この日も華麗な3発で、チームに漂っていた苦しい雰囲気を払拭した。ここでは、サンフレッチェ広島OB・吉田安孝氏が、新戦力・新井直人の魅力を解説する(取材は2024年5月)。

今季加入後、着実に存在感を見せている新井直人

◆まさに『原点回帰』。試行錯誤の末に手にした勝利から、浮上のきっかけをつかめるか

 長く勝利から遠ざかってしまっていたサンフレッチェでしたが、ルヴァン杯、天皇杯を経て、徐々に勢いを取り戻してきているように感じます。今回は、新井直人を取り上げたいと思います。

 京都戦 (5月19日、○0-5)で達成したハットトリックは、それぞれ左足・頭・右足で決めるという、非常に珍しく、そして完璧なハットトリックでした。さらに素晴らしい点は、それらのゴール全てが高いスキルのもとで生み出されたという点です。

 例えば左足で決めた、1点目。クロスをコンパクトに振り抜いてグラウンダー(低軌道)のシュートを叩き込みましたが、あのゴールをあげるには、高いテクニックが必要です。2点目、3点目のいずれもクオリティが高く、『両足のどちらからでも得点を生むことができる』という、新井のストロングを存分に発揮してくれた試合だったと言えるでしょう。

 さらに新井は、ゴールだけでなくアシストでもチームに貢献しています。フリーキックの精度も見事ですし、相手DFとの駆け引きなど、細かい部分の技術も非常に高い。きっと新潟時代からも、そうしたテクニックに長けていたのでしょう。攻守において穴のない、素晴らしい選手だと思います。

 その京都戦は、スタメンを大幅に入れ替えて臨んだ一戦でした。試合の流れ、選手のケガ……そういった要因もありながら、そのたびに選手のポジションを入れ替えるなど、チームとしても変化を加えながら勝利に向かって突き進んできたのだと思います。そうして試行錯誤を繰り返すうちに、『広島らしいサッカー』を取り戻すことができたのではないでしょうか。

『原点回帰』という言葉がありますが、京都戦でサンフレッチェが見せてくれたプレーは、まさに原点回帰そのものだったように感じます。勝つためにさまざまな変化に挑戦した結果、気がつけば、自分たちがもといた場所、得意とするところに戻ってきたという印象があります。苦しみながら新しいことにチャレンジし、自分たちの良さに気づいていく。京都戦は、そのきっかけとなる試合だったと感じました。

 現在サブメンバーに入っている選手、あるいはベンチ外になっている選手たちは、出場機会に飢えているはずです。例えば夏場の連戦のなかで京都戦のようにメンバーが入れ替わる試合があり、そこでチャンスをつかんだ選手たちが活躍してくれれば……。サンフレッチェ広島全体としてもグレードアップ、成長していくことができると期待しています。