「自分たちが優勝を手放してしまった。あの悔しさは、優勝でしか晴らせない」。広島が誇る万能型DFは、昨シーズンをそう語る。プロ1年目から着実に成長を遂げ、昨季はJリーグアウォーズで優秀選手賞も受賞。J屈指のプレーヤーとして名前が上がるようになった中野就斗が、悔し涙に終わった2024シーズンを振り返る。(全3回/第1回)

今季は中野のロングスローも武器の一つになっている

サッカー人生で一番悔しい日。この先も絶対に忘れることはない

—プロ3年目の2025シーズンは富士フイルムスーパーカップから始まり、AFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)、J1リーグと、スタートから多くの試合を消化しています。中野選手自身のここまでの手応えはいかがですか。

「チーム全体としては開幕前のキャンプでやってきたことを試合でも出すことができていますし、良いスタートを切ることができたと思っています。ただ自分自身のプレーは、もっともっとできる、やらなければいけないとも感じています」

—J1リーグは序盤ですが、ACL2のアウェイゲームでは海外への遠征もありました。気持ちの切り替えなどで難しさは感じませんか。

「相手選手の身体能力はJリーグとACL2で違いますが、どのチームとの対戦でもやることは変わらず、サンフレッチェらしいサッカーをすることです。なので、常に目の前の試合を全力で戦うだけだと思っています」

—海外で試合をするとなると、飛行機移動や時差、環境への適応など、Jリーグとは異なる要素が求められるのではないですか。

「移動や時差もありますが、海外に行くとスタジアムの控室が少し汚かったりして、日本でサッカーができる幸せを感じます。日本のような素晴らしい環境でサッカーができることは当たり前ではないので、もっとプレーを楽しまなければいけないと思う反面、海外での経験も将来に向けて貴重なものになると思うので、プラスにとらえています」

—2年目の昨季はリーグ戦全38試合に出場し、フィールドプレーヤー最長の出場時間を記録しました(全3420分のうち3348分)。手応えと同時に、優勝争いで競り負けて最終順位は2位と、悔しい結果に終わっています。

「たくさんの試合に出場させてもらい、1年目以上に成長することができたと感じていますが、チームを優勝させるだけの力は、まだなかった。悔しい気持ちを味わったメンタル面も含めて、サッカー選手として一回りも二回りも大きく成長できたシーズンでした」

—1年目と2年目を比較して、どんなところで手応えを実感しましたか。

「1対1や球際の強さなど通用するプレーが増えて、より自信や勢いを持ってサッカーができていると感じていました。1年目と2年目では練習や試合でのメンタリティーが全く違っていて、だからこそ5得点5アシストと結果を残すこともできたと思います」

—1年目もリーグ戦全34試合中30試合に出場して1得点と、一定の結果を残しています。それでも1年目は自分がプロでやっていけるのか、不安も感じていたのですか。

「1年目は個人の結果も大事でしたが、やはりチームに迷惑をかけないように意識していて、自分らしいプレーを出すことができませんでした。でも2年目はメンタル面も含めて成長することができて、このチームを勝たせたい、優勝させたいという強い思いがプレーに表れたのが良かったと感じています。サッカーは勢いがある選手が活躍することが多いと思っていて、そういう選手の元にはボールが転がっていきますし、相手にとっては脅威です。2年目は自信を持って力強くプレーできたことが、得点やアシストに表れました」

—ただ、チームは首位で終盤に入りましたが、残り5試合で1勝4敗と失速して2位。最終節の後に中野選手は涙を流していました。

「間違いなく、サッカー人生で一番悔しい日になりました。最終節でG大阪に勝っていたとしても(神戸が勝利したので)優勝はできなかったですが、それまでに負けが続いて、自分たちが優勝を手放してしまった。チームもそうですが自分の力も、まだまだ足りないと思い知らされました。今後のサッカー人生でも絶対に忘れることはない1日です」

—あの時期の優勝争いの重圧は、これまでに経験したことがないものでしたか。

「あの時期は毎週、試合や練習をするたびに成長を感じていたので、重圧ではなく、純粋にサッカーを楽しむことができていました。でも、それが結果につながらなかったわけですから、まだまだ力が足りないと実感しましたし、思うように勝てなくなった最後の数試合は、やはり独特な雰囲気でした」

(第2回へ続く)