メジャー4年目の今シーズン、カブス・鈴木誠也が好調だ。現在ナ・リーグ中地区の首位を走るチームのなかで、本塁打数トップ、打点数も77打点と爆発している。カープ在籍中も首位打者2回、ベストナイン6回、ゴールデングラブ賞5回を受賞するなど打線の中心として活躍した鈴木だが、その道のりは決して平坦なものではなかった。

 ここでは、プロ3年目の春季キャンプ中に行ったインタビューから、レギュラー奪取に燃えていた鈴木の言葉を届ける。3年目に臨む鈴木の大きな原動力になったもの、それは、2年目の悔しい経験だった。

当時の背番号は『51』。のちに、前田智徳以来空き番号となっていた『1』を背負うこととなる。

◆"あの満塁の場面"を思い出してしまう

─プロ2年目の2014年は、一軍試合出場を増加させました。鈴木選手にとってはどのようなシーズンでしたか?

「昨季は後半、一軍で試合に出ることができましたが、今までの野球人生で一番悔しいシーズンでした。特に阪神とのクライマックス・シリーズ(以下CS)第2戦の満塁の場面(両チーム無得点で迎えた7回表、1死満塁で打席を迎えるもサードゴロ)は、本当に今でも悔しくて忘れられません……。あの試合以降は、満塁の場面を考えるとそれしか頭に出てこないくらい僕にとって大きな打席でした」

─いま振り返ってみて、あの打席はどんな気持ちだったのでしょうか?

「あのときは『打ってやる』という思いで頭がいっぱいになっていました。冷静に考えれば1死満塁の場面なので、外野フライを打てば良いという気持ちでいけると思うのですが、〝打ちたい〟という意識が強過ぎて、気持ちと実力が一致していませんでした。悔しい経験でしたが、プロ2年目であの場面を体験できたのは貴重ですし、起用していただいた野村(謙二郎)前監督に感謝しています」

─悔しいCSとなりましたが、シーズン後半戦に一軍で活躍できたことは自信になったのではないでしょうか。

「自信というよりは『何とかやっていけるかも』という気持ちが強かったですね。良い投手から打てることもありましたし、真っすぐのタイミングで変化球に対応することもできました。あと一軍の投手の球威に負けることなくバットを振れるという自信がつきました」

─後半戦は特に打撃内容が飛躍的に良くなりました。どんな部分がご自身のなかで変わったのですか?

「昨年の8月前半に野村前監督に『球との距離をしっかり取って思い切りバットをぶつけろ』とアドバイスをもらったのがきっかけです。それまでは『ここに球がきたから振ろう』という感覚だったのですが、しっかりトップをつくった状態で、球を自分のポイントに呼び込んで打つという感覚に変えたんです」

─打撃フォームにも変化はあったのですか?

「見た目ではあまり変わっていなかったと思いますが、それまでトップを高い位置に置いて構えていたのを、やや体の前にグリップを置いて、足を上げると同時にトップをつくることで間が取れるようになりました。タイミングが取りやすくなり、それが僕にハマりました」

─タイミングの取り方が変わり、打撃成績が向上したのですね。

「タイミングの取り方をつかんだことで、自分でも今まで打ったことのないような打球が飛ぶようになったんです。その時期は体の調子が良かったこともあるかもしれませんが、後半戦は気持ちも体も乗っていたと思います」

─長く一軍にいたことで、メンタル面での変化もあったのでしょうか?

「二軍の頃は、1本も安打を打てなかったら『最悪……』と落ち込んでいましたし考え込んでいました。でも一軍でキクさん(菊池涼介)、丸さんの姿を見ていたら打てなくてもへっちゃらな感じですし、結果を残されているんです。そんな2人の姿を見て僕も『打てなくてもいいや』と思って打席に臨むようになったら、打撃成績も良くなってきました。あの2人からメンタル面はすごく勉強させてもらいました」