◆カープのダイバーシティマネジメント

 「野球×IT」によりプロ野球の戦術は多様化している。これに対応するためにはチームも同じ程度の多様性(ダイバーシティ)を保持していなければならない。これを最小有効多様性という。この実現にもモジュール化は不可避なのだ。

 では、モジュール化をどのように進めていけば良いのだろうか。

 モジュラー型チームの課題はチーム統合へのこだわりだ。これを実現するためには指針となる「ゲームモデル(戦いの設計図)」を構築しなければならないだろう。

 野球以上に状況変化が激しいサッカーやラグビーはこのモデルにより、同じ戦略のシェイプ(かたち)を共有しているのだ。

 カープでいえば、70年の歴史の中で培われた「つなぎ」の野球、「ねばり」の野球、逆境からの「あきらめない」野球哲学を土台にしたモデルを構築することができるだろう。

 今シーズンのカープは、羽月隆太郎や大盛穂といった、将来に期待できる新戦力が台頭しつつある。彼らの力を発揮させ、チームにシナジーをもたらすためには、勝ちを知るベテラン選手との有機的なゲームモデルを描かなければならない。

 完成まで300年かかると言われた「サグラダ・ファミリア」もIT技術を駆使することで、工期が半減される予定だ。これを可能にしているのは技術革新もさることながら、その心柱にガウディの思想がしっかりと継承されているからだろう。

 ガウディは、建築物の設計に数式よりも模型(モデル)を重要視したと聞く。デジタル化が進み、モジュール化がされようとも、彼の実験哲学や思いはモデルによって現代の職人チームに共有されている。

 ヒト・モノ・カネの限界の先に可能性を見出してきたカープ。この伝統のカープ・モデルを継承しつつ、新たなチーム・アーキテクチャーに挑戦していかなければならない。

 「スクラップ・アンド・ビルド」

 カープには常に「未完成」であり、高みを目指し続けるチームであってほしいと願っている。

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高柿 健(たかがき けん)
広島県出身の高校野球研究者。城西大経営学部准教授(経営学博士)。星槎大教員免許科目「野球」講師。東京大医学部「鉄門」野球部戦略アドバイザー。中小企業診断士、キャリアコンサルタント。広島商高在籍時に甲子園優勝を経験(1988年)、3年時は主将。高校野球の指導者を20年務めた。広島県立総合技術高コーチでセンバツ大会出場(2011年)。三村敏之監督と「コーチ学」について研究した。広島商と広陵の100年にわたるライバル関係を比較論述した黒澤賞論文(日本経営管理協会)で「協会賞」を受賞(2013年)。雑誌「ベースボールクリニック」ベースボールマガジン社で『勝者のインテリジェンス-ジャイアントキリングを可能にする野球の論理学―』を連載中。