2016年を象徴する名場面の一つが、鈴木誠也のこのシーン

運命を変えたオリックス3連戦

 鈴木が3者連続本塁打を記録した4月26日は、新井貴浩が2000安打を達成。この日鈴木は2発の本塁打で花を添えた。そして5月に入っても好調をキープ。開幕当初は『若い力=タナキクマル(田中広輔、菊池涼介、丸佳浩)』の印象が強かったが、日を追うごとにファンの中での鈴木に対する認識も変わっていた。

 そして迎えた運命の交流戦。それまで溜めてきたものを一気に吐き出すかのように、オリックスとの3連戦では自身のリミッターを解除した。第1戦(6月17日)、第2戦(6月18日)で2試合連続となるサヨナラ本塁打を放つと、続く第3戦(6月19日)でも決勝本塁打を放ちチームに勝利を呼び込んだ。緒方孝市前監督が発した「神ってる」という言葉は、この年の鈴木を表現する、まさに言い得て妙なワードといっていいだろう。

「自分でもどうして打てたのか、球場で何が起きたのかよく分からない感じでした。自分が何でこんなに変わったのかも分からないですね。マジで奇跡だと思います(笑)。自分でもどうして打てたかが分からなくて、どうやって気持ちを伝えれば良いか分からなかったですし、『最高!』という言葉しかないんですよね(笑)。でもこれは本心です」

 オリックスとの3連戦で一躍全国区の選手となった鈴木だが、周囲の喧騒に惑わされることなく、その後も試合と練習に没頭した。「鳥肌が立ったぞ」と興奮気味に父親からの連絡を受けても、「ありがとう。でも、これからだから浮かれない」と冷静に受け止めた。

「周囲は乗せてくれますが、それに乗りたくないですし、家族にも乗られると嫌なので(笑)。もちろん喜んでくれるのはすごくうれしいですけど、家族から言われると僕も浮かれそうになるので、『何も言わないで』と、家族には言っています。今後打てなくなることが絶対にあると思うので、まずは一日一日を必死にやっていきたい気持ちだけです」