秋季広島県高校野球大会の決勝は、広島商が尾道商との公立校対決を7-3で制し、昨夏の独自大会以来の頂点に立った。3位決定戦で夏8強の広島工大高を9-2で下した広陵と、準優勝した尾道商を含めた3校が、10月22日から山口県で開催される秋季中国大会に出場する。大会は、翌春行われるセンバツ選考の重要な参考資料となり、中国地区からは2ないし3校(21世紀枠を除く)が選出される。センバツ出場を確実にするためには、中国大会の決勝戦まで残ることだ。

秋季大会決勝で先発した広島商の神野智(2年)

 今年の広島県勢3校は、投手力に課題を残した。どのチームにも絶対的なエースがいない。昨年は広島新庄に、今年のドラフト候補・花田侑樹がいた。一昨年は同じ広島新庄に、1年生ながら制球の良い左腕・秋山恭平がいた。その前は、広陵に河野佳(現:大阪ガス)、市立呉には沼田仁(現:近大工学部)がいて、共にセンバツ出場の原動力になった。例年、好投手を擁し、中国大会で上位に食い込み、センバツを手中にしてきた。


 優勝した広島商は、初戦の広島新庄には11-1で快勝したものの、2回戦以降は先発投手が日替わりで、3投手以上を投入して逃げ切った勝利だった。2回戦の近大福山戦では7失点し、3回戦の瀬戸内には6失点で、何れも1点差の勝利。今大会一番の注目カード、準決勝の広陵戦では、意表をついて1年生の技巧派左腕・加藤雄平を初先発させた。結果は、6回2失点の好投。相手指揮官に「左の(球速)100km(の投手)は練習できない。のらりくらりと上手くかわされた」と言わせた。決勝も4投手のリレーで勝ったものの、大会5試合で39与四死球。今一度制球力を磨き、ロースコアの戦いに持っていきたい。


 今大会優勝の要因は、堅守とスキのない攻撃と見る。5試合で2失策したが、内外野の守備力は高い。特に足の速い外野手が揃っており、中国大会で使われる両翼100mの球場ではその脚力がますます輝くだろう。攻撃では、準決勝、決勝ともにスクイズを絡めてビッグイニングを作り、「広商野球健在」を思わせた。

 昨年の冬、見学に行った尾道商のグラウンドでは、3カ所ノックで、延々と守備練習をしていた。その中に、やや細身ながら軽快なフットワークでゴロを処理するショートが目に止まった。当時1年生の和田瑞己だった。


 「チーム的には守りのチーム。右も左もサイド(の投手)もいて、いいタイミングで継投したい」。池田英徳・尾道商監督の言葉とは裏腹に、県大会5試合での、打率3割6分2厘、47得点は3チームの中で最も高い数字である。10安打の走れる3番・和田瑞己(2年)や、14打点の5番・石井悠斗(2年)の打撃が目を引いたが、53四死球を奪ったチーム全体の選球眼の良さが、高得点につながった大きな要因だ。

 投手陣は、夏も主戦として投げた左腕・小林龍世(2年)が柱。エースが初戦を完封したものの、以降は継投で戦っている。リリーフ専門の左腕・賀美颯太(2年)が4試合、8回1/3を1失点と好投している。7回までを右腕を含めた投手陣で失点を抑え、賀美につなぐ継投を確立したい。バックには、好守備を見せるショート・和田をはじめ、堅守の野手が揃っている。

 優勝候補と目された広陵は、投手陣を試しているうちに準決勝で広島商に打ち込まれた。140kmを超える球を投げる投手を複数抱え、大会で多くの投手に登板経験させ、柱を決めかねているように見えた。3位決定戦になって、今大会最も球速の出ている右腕・森山陽一朗(2年)が被安打8、奪三振9、2失点で完投した。背番号は20。理由は実戦経験が少なかったこと。「技術が無いので後ろにつなぐつもりで投げた」。「コントロールが足りないので修正したい」。完投勝利後も本人の口からは控えめな言葉が続いたが、この試合で経験値が上がり、エース候補に急成長した。

 投手を見ても野手を見ても、県下で最も選手層が厚く、レベルも高いと感じられる広陵。大会5試合での17失点は3チームの中で最少だが、得点37も最少の数字。盗塁3が示すように、県大会では機動力をあまり使っていない。中国大会では、機動力を使い、最も嫌がられるチームになるべきだ。

 中国大会に出場する3チームに共通していることは、旧チームで活躍した選手が多く残っていること。緊急事態宣言や長雨で満足に練習できなかった新チームは、明らかに実戦不足。それを夏に戦ったメンバーの経験がカバーした格好だ。そして対外試合が出来なかった分、チーム内で紅白戦を行ったが、仲間内では思い切った内角攻めが出来ていない。尾道商と広陵は県大会5試合で、死球を1しか与えていない。内角攻めの重要さも再認識して中国大会に臨んでほしい。