2016年には選手会長として25年ぶりの優勝に突き進むチームを牽引。カープで13年間プレーした、かつてのリーダーがコーチとして帰ってきた。戦力外通告から独立リーグを経てパ・リーグに移籍。そして昨年現役を引退。栄光も挫折も知る小窪哲也コーチが胸に宿す選手育成論に迫った。(全3回のうち1回目・取材は2022年3月上旬)

今季からカープの一軍内野守備・走塁コーチに就任した小窪哲也コーチ

◆感謝の気持ちで受けたコーチ依頼

─まずはコーチ就任の打診があった時の率直な気持ちを教えてください。

「そうですね……。2021年はご縁に恵まれ、カープ以外の球団でさまざまな経験ができた1年だっただけに、まだいろいろな世界を見てみたいという気持ちも正直ありました。ただ一方で、カープで指導者になりたいという目標もあったので、声をかけていただいた時は素直にうれしかったです。感謝の気持ちと共にすぐに『やります』と返事をしました」

─コーチとして、春季キャンプに向けてどんな準備をしてこられましたか?

「実は昨季1年間、コーチの方たちがどんな思いで選手と向き合っているか、これまで以上に意識して、見て学んできました。6月に入団した独立リーグの火の国サラマンダーズ(熊本)には元プロ野球選手のコーチがいましたし、8月に移籍したロッテでは、カープとは違う指導者の下でプレーすることができました。もちろん、これまでの野球人生で出会ったコーチの方の存在も大きいです。初めての経験なので何が正解なのか分からず手探りの状態ではありましたが、そういった経験をもとに、自分が現役時代に思っていたことや感じていたことも振り返りながら、選手たちと一緒に考えて戦っていこうと決めてキャンプに臨みました」

─選手ではなく指導者として過ごした春季キャンプは、小窪コーチにとってどんな一カ月でしたか?

「キャンプは現役時代から何度も経験しているので1日の練習の流れは頭に入っていました。ただ、コーチとして動くのは初めてなので、最初のうちは分からないことも多かったですね。指導において一番意識したのは〝選手の自主性〟です。選手には自分で考えて練習に取り組んでほしかったので、こちらからこれをしよう、あれをしようとは言わないように心がけていました。まずは選手自身が考えることが大事ですから。それでも迷ったり困ったことが出てきた時は、選手の方からアドバイスを求めにきてくれるようにしたいと思っていました」

─選手との向き合い方にも小窪コーチならではのアプローチを感じます。

「キャンプに参加している大多数はプロの世界で何年もプレーしてきた選手たちですから、昨年の成績を受けて、〝自分に足りないもの〟はなにかを把握しているはずなんです。なので、あえて指摘はせずに、選手自身が課題への意識を持って取り組めるように心がけました」(続く)

◆小窪哲也(こくぼ・てつや)
1985年4月12日生、奈良県出身。2007年大学生・社会人ドラフト3巡目でカープに入団。1年目から主力として一軍で活躍し98試合に出場。2016年には選手会長として25年ぶりのリーグ優勝に貢献した。2021年は他球団でのプレーを経験し、昨年限りで現役引退。2022年から一軍内野守備・走塁コーチに就任。