プロ16年目、今季で34歳を迎える會澤翼。坂倉将吾、石原貴規、中村奨成といった次世代捕手が続々と台頭する中で、佐々岡監督は今季の正捕手に會澤を指名した。世代交代が進むカープにおいて、チームに會澤翼が必要な理由とは何か―。

若手捕手の成長も著しいが、今季、佐々岡監督は會澤を正捕手に指名。4年ぶりのリーグ制覇に向けて、優勝の味を知る會澤がカープ投手陣を牽引していく。

◆會澤を正捕手に指名した佐々岡監督指揮官の胸の内にある思いとは

 「正捕手は、會澤です」

 佐々岡真司監督は2022年シーズン開幕を前に、こう断言した。これを意外に思うファンも多いのではないだろうか。

 チームには昨季、セ・リーグ2位の打率.315をマークした坂倉将吾や、強肩とパンチ力を武器に60試合に出場した石原貴規といった〝次世代の正捕手候補〟が控えている。プロ5年目を迎える中村奨成も順調に成長中だ。小園海斗、林晃汰といった若い世代が台頭を見せる内野陣とともに、『正捕手』も世代交代の時期が来ているように思える。

 少なくとも、開幕を前に正捕手を断言するのではなく競争させる選択肢もあったはずだ。にもかかわらず、佐々岡監督は今季の正捕手に早々と會澤翼を指名した。

 その意図は一体どこにあるのだろうか。

 會澤は2017年から3年連続でセ・リーグベストナインを受賞し、『不動の正捕手』に君臨。投手から絶対的な信頼を勝ち取り、持ち前の打撃でも2018年、2019年と2ケタ本塁打をマーク。選手会長も務めるなど、チームの精神的支柱としてプレーした。

 しかし、佐々岡監督就任以降の2年間は故障や若手の台頭などで出場機会が減少。2年連続で出場試合数は100を割った。4月13日には34歳を迎え、ベテランと呼んでいい時期に差し掛かっている。

 それでも、4年ぶりの優勝、Aクラスを目指すためには、「會澤が正捕手である」ことが必要になってくる。それは、なぜか――。

◆世代交代の好循環を生むため會澤だからこそ任せられる役割

 ひとつは、會澤のチーム内における存在感の大きさだ。確かに今、カープは世代交代の真っただ中にいる。3連覇に貢献した主力選手たちに代わって若い選手が成長し、その座を奪う。チームとしては理想的な好循環が生まれつつある。ただ、その中でも間違いなく豊富な経験を有する軸となる選手が必要になる。若さはチームに勢いをもたらすが、脆さも併せ持つ。そんな時、チームの崩壊を防ぐのが〝軸となる選手〟だ。

 リーグ3連覇を達成した時、丸佳浩、菊池涼介、田中広輔、鈴木誠也といった選手が次々と台頭し、チームに勢いが生まれた。しかし、その勢いを安定させ、チームの土台を作ったのは新井貴浩、黒田博樹といった経験豊富なベテラン選手だった。

 彼らがいてこそ、若い選手が思う存分、のびのびとプレーできる。チームの模範となり、精神的支柱となる。そんな選手がいて初めて、『世代交代』は完結する。

 佐々岡監督が會澤に求めるのは、まさにそれだろう。世代交代が順調に進みつつある今だからこそ、チームにはまだ會澤が必要になる。ただでさえ、捕手というポジションは扇の要といわれる。二塁の菊池とともに経験のある選手がセンターラインを固めることで、他ポジションで思い切って若い選手を抜擢することができる。

 また、鈴木誠也の移籍も會澤の必要性を再認識する出来事だったと言える。4番を担った絶対的存在がチームを去り、間違いなくチームの打力は下がった。計算できる打者は何人いてもいい。プロ4年目の小園は確かに成長しているが、まだ一軍での実績は乏しく、1年間を通して活躍できるかは未知数だ。坂倉も打撃を活かすためにはいきなり正捕手を任せるより、一塁や三塁と併用した方が負担は軽減できる。

 會澤を正捕手に固定することができれば、二塁の菊池とともに打線にも軸が生まれる。その上で、坂倉、小園を起用し、鈴木誠也が抜けたライトに未知数の外国人や若手を“試す”こともできる。

 改めてチームのバランスを考えると、佐々岡監督が断言した『正捕手・會澤』がいかに合理的かが分かってくるはずだ。

 捕手は、野球の中でも特殊なポジションだ。野手でありながら、投手との共同作業で『守』の舵取りを担う。他のポジションよりも圧倒的に経験がアドバンテージとなる。その上で、現在のカープに會澤以上の経験を持つ捕手は存在しない。

 捕手として投手陣を支え、打者として若手野手たちに安心感を与える――。これは坂倉にも、石原にも、中村奨成にもできない、會澤だからこそ任せることのできる役割だ。

 プロとして必要な経験を積み重ね、その存在感は健在。2018年以来となるチーム4年ぶりの優勝へ向け、會澤翼は勝負の16年目を戦い抜く。