◆「最多安打」と「最多犠打」の同時達成は史上初

 菊池はそのキャリアにおいても犠打を絡めた記録ですでに「史上初」の偉業も達成している。

 2016年のシーズンにおける「最多安打と最多犠打の同時達成」がそれだ。この年の菊池の安打数は181で犠打数は23。犠打を記録すると、その数だけ打席数が少なくなるわけだから、最多安打を狙うには不利になることは言わずもがな。それを2番という打順で達成した菊池の達成レベルは異次元クラスと言っていい。ちなみにこの年は広島が25年ぶりのリーグ優勝を決めたシーズン。シーズンMVPに菊池を推す声が多かったのはこう言った数値を見ても明らかだ。

 安打と犠打の数字から菊池の凄味を見てとれるのがもうひとつある。これまで300犠打以上を記録した7人の選手のうち、安打数が試合数を上回っているのは菊池ただ一人ということだ(※今季の成績は含まず)。

 川相昌弘は1909試合出場で1199安打、平野謙は1683試合で1551安打、宮本慎也は2162試合で2133安打、今宮健太は1155試合で962安打、伊東勤は2379試合で1738安打、田中浩康は1292試合で1018安打、そして新井宏昌は2076試合で2038安打。

 ご覧のように、2000本安打達成者である宮本と新井ですら安打数が試合数を上回っていないなか、菊池は1285試合で1356安打を記録。菊池といえば、まず第一に守備面をクルーズアップされるのがスタンダードだが、“凄い数字”はバットを持った数値にも表れているのだ。

 それに加えて、今年の菊池は“犠打絡みの小技”も冴えに冴えている。たとえば、3月30日の阪神戦では4ー2で迎えた7回裏、無死一・二塁の場面で所有、送りバント(犠打)を試みるが一塁方向へファウル。一見“犠打、失敗”のようにも見えたこのシーンだが、この時、解説者の藤田平氏は「わざと失敗したように見えた。わざとファウルにして阪神のシフトを確認して…。次に仕掛けてくるかもしれません」と指摘。

 直後の2球目に菊池はバスターを敢行。外寄りのボール気味の直球を叩きつけた打球は前進守備の一塁・マルテの頭上を越え、右翼線への2点タイムリーとなり、試合の方向性を決定づけた(結果は8ー3でカープが勝利)。

 4月2日の中日戦では初回にバスターエンドランを決めて先制への布石を作った。そして4月7日の巨人戦では4ー2で迎えた7回裏にセーフティスクイズ(記録は犠打野選)を成功させ、これまた試合の流れを大きく引き寄せている。

 参考までに、今季の広島のチーム犠打数は27(※4月17日現在)でダントツのリーグ1位。そのうち、菊池による数字はこれまたリーグ1位の10個(※4月17日現在)。今季、広島がここまで好調であるのは、菊池涼介が“菊池涼介であること”を見せつけるような働きをしていることも、大きな要因であることは間違いないだろう。