2023年6月16日に流れた突然の訃報は、多くの悲しみに暮れ、大エースの残した偉業を振り返った。今、カープのエースとしてマウンドを引き継がせるべき存在に、北別府学は厳しくもたくさんの愛情を注いだ。「大瀬良の大ファンだから」その一言で、全てが完結する。大瀬良大地が受け取った大切なバトン。

自分でも納得のできる投球を目指し、大瀬良大地はマウンドに立ち続ける

◆北別府さんが力を貸してくださったのかな、良い姿を見せられた

 ここ数年、北別府さんが闘病されているのは、もちろん知っていました。その間、なんとか元気を届けたいなという思いで、選手たちはみんな頑張っていました。6月16日に亡くなられた一報を聞いた時は、僕だけでなく、みんなすごくショックを受けました。特に何かを思うでもなく、ただショッキングな気持ちがずっと駆け巡っていた感じです。
 チームとしても、大変お世話になった大先輩です。一時期、元気にされていた時はグラウンドに顔を出してくださって、一言二言、 選手に声をかけていただいていました。もちろん、テレビ中継などの解説もされていましたので、そこで姿を拝見したり、叱咤激励の言葉をいただき励みにしていました。選手たちやチームに、ずっと接してくれた方でした。

 北別府さんとのお別れが終わり、6月24日に先発を任されました(対巨人)。北別府さんへの思いを持ってマウンドへ向かうではないですが、やはり良いピッチングをして、お世話になった恩返しをしたいという思いは持っていました。
 結果として、今年 1番のピッチングができた試合、手応えを感じた試合でした。制球面もとても良かったし、『もしかして北別府さんが力を貸してくださったのかな』と思うくらい、良い感覚で投げられました。良い姿を見せられたと思います。

 思い返してみると、僕が北別府さんに最初にお会いさせていただいたのは、入団1年目の春のキャンプで、ご挨拶をさせていただいた時のことです。その時に、「頑張れよ」という感じで、やはり一言二言声をかけていただきました。たくさん喋る方ではないですし自分はルーキーでしたし、大先輩に向かっていろいろと話せる心の余裕もありませんでした。やはりオーラがすごくて、自己紹介くらいしかできずに、そのときは終わりました。
 その後、球場でお会いするときでも、やはり一言二言。『お前は優しすぎるんじゃ、もっと厳しく攻めろ』とよくおっしゃっていましたし、直近の状態などをお話しさせていただいていました。北別府さんには、優しさはもちろんありましたけど、「もっと頑張れ!」と厳しい言葉をかけて励ましてくださった印象の方が強いですね。

 そんな北別府さんと、最後に直接お話しができたのは、もう何年も前で闘病に入られる前くらいかと思います。それから闘病生活をされていることは、ご自身のブログやテレビ番組などで拝見させていただいていました。練習に足を運んでいただいたり、解説をされていた元気な北別府さんを知っていますので、ブログで知る闘病中の大変な苦労、しんどい思いをされている姿は、僕が知っている北別府さんとのギャップをとても感じました。
 ただ、そんな大変な時でも、選手たちのことを気にかけていただいていたり、カープのことをブログで書いてくださっていました。だから『もっと自分は頑張らなきゃ! 北別府さんも元気になってもらわないと』という思いをいつも持っていました。

大瀬良大地 ●おおせらだいち
1991年6月17日生、長崎県出身。長崎日大高-九州共立大-広島(2013年ドラフト1位)。2014年に入団し、4月2日のヤクルト戦でプロ初登板。ルーキーながらも、この年は10勝(8敗)をマークして新人王に輝く。以降、10シーズンに渡り先発ローテーションを担い続ける、カープ投手陣の大黒柱。近年はケガの影響もあり、シーズンを通して一軍で投げ続けることが難しい悔しいシーズンが続いているが、先発投手としての実力は誰もが認めるところ。コンディションを万全にして、投手陣をさらにけん引してほしい。

 
広島アスリートマガジン8月号は、「追悼特別特集 北別府 学 ありがとう 20世紀最後の200勝投手」カープが誇る大エース北別府学氏が残した偉業の数々を振り返りながら、強いカープを共につくりあげた仲間たちが語るその姿をお届けします。