2023年6月16日に流れた突然の訃報は、多くの悲しみに暮れ、大エースの残した偉業を振り返った。今、カープのエースとしてマウンドを引き継がせるべき存在に、北別府学は厳しくもたくさんの愛情を注いだ。「大瀬良の大ファンだから」その一言で、全てが完結する。大瀬良大地が受け取った大切なバトン。

大瀬良の大ファンだから、たくさんの期待をしてしまう

 同じ投手として、北別府さんを意識する点があるとすれば、勝負に対してすごく厳しさを持っているところです。勝負にかける思いがすごく強くて、真似してできるレベルのものでもないと思えるくらい、厳しい方だったと感じていました。
 僕とはタイプが違うかなとは思いましたが、ただやはり、そういう一面、そういう気持ちがないと、上には行けないという意識を持たせていただきました。派手なガッツポーズを止めてみたり、マウンドではあまり笑顔を見せないようにしたり、マウンドに上がってからの立ち振る舞いなどは、直接お話しをさせていただいて意識するようになりました。
 北別府さんや黒田(博樹)さんといった、
エースと呼ばれている方たちは、やはり勝負に徹してとても厳しく、カープのエースはそういう人たちが多いなと感じました。だからまずは、見た目だけでも真似して、少しでも近づきたいと思ったことを覚えています。ですから、北別府さんが偉大なエースだということは、いつまでも揺るぎない事実です。

 一人の大先輩として、北別府さんを見せさせていただいたとき、僕はコーチと選手という関係でも接点がありませんでした。ですがキャンプへ視察に来られたり、僕が投げる試合をテレビで解説してくださるときに、厳しいコメントをいただけるイメージが強いですね。
 でも、あるテレビの解説をされているときに『大瀬良にはなぜ厳しいコメントするのですか』という質問に対して『それは、僕が大瀬良の大ファンだからです』と北別府さんが答えてくださったのです。
 それを聞いて、厳しい言葉をいただくこともありますが、本当に心から応援してくださっているのだと感じましたし、少しでも良い結果を残して、なんとか優しい言葉をかけてもらいたい、よくやったなと言ってもらいたいと思いながら、マウンドに立つようになりました。次こそ褒めてもらおうという思いで投げていました。

 直接お話するときはすごく優しくて、あの解説の時の厳しいコメントなんて嘘みたいな感じです。オフにシーズンを振り返っての話しをする時には、必ず『苦しかったな、大変やったな。ただこれが来年につながっていくと思うから、またしっかり頑張れよ』と言ってくださいました。現役時代はすごく厳しい方だったと聞いていましたし、テレビでの解説のときも厳しくコメントをされていましたが、でも後輩の僕たちにとっては、本当に優しく、とても大きな方でした。

 本当ならば、これからもずっと北別府さんにカープの野球、僕のピッチングを元気に見ていただきたかったです。ですがこれからは天国で厳しい言葉も呟きつつ、でも安心して見てもらえるように、カープの野球をやっていきたいと思います。

 今は足元にも及びませんが、カープの偉大な先輩であり、少しでも近づきたい存在だということは、これからも変わりありません。1歩ずつではありますが、いつまでも北別府さんを追いかけていきたいと思っています。
 本当にありがとうございました。

大瀬良大地 ●おおせらだいち
1991年6月17日生、長崎県出身。長崎日大高-九州共立大-広島(2013年ドラフト1位)。2014年に入団し、4月2日のヤクルト戦でプロ初登板。ルーキーながらも、この年は10勝(8敗)をマークして新人王に輝く。以降、10シーズンに渡り先発ローテーションを担い続ける、カープ投手陣の大黒柱。近年はケガの影響もあり、シーズンを通して一軍で投げ続けることが難しい悔しいシーズンが続いているが、先発投手としての実力は誰もが認めるところ。コンディションを万全にして、投手陣をさらにけん引してほしい。

 
広島アスリートマガジン8月号は、「追悼特別特集 北別府 学 ありがとう 20世紀最後の200勝投手」カープが誇る大エース北別府学氏が残した偉業の数々を振り返りながら、強いカープを共につくりあげた仲間たちが語るその姿をお届けします。