思わず心を奪われる!カープの話題をゆる~くまったりと展開してくれる“オギリマワールド”。関東出身ながら中学生からカープファン。独自のタッチで描かれるイラストを交えたコラムでおなじみのオギリマサホが、広島アスリートマガジンWEBで、新たなカープの魅力を切り取る。今回は、『4番打者』について、オギリマ視点でゆる~く取り上げる。

7月22日、“4番”打者としてスタメン出場した上本崇司(イラスト・オギリマサホ)

◆これまでの“4番打者”像を、大きく覆す存在

 7月22日、オールスターも終わり、シーズンの後半戦がスタートする日であった。その日に行われる中日戦のカープのスタメンを見た私は、思わずその名を二度見した。

 「4番・上本崇司」

 多くのカープファンも同じ気持ちだったようで、スタメンが発表された時、マツダスタジアムではどよめきが起こったという。それは、誰もが抱く「4番打者」のイメージと、上本とが全く結び付かないという驚きではなかっただろうか。

 「4番」には普通、ホームランを量産するような長距離打者が就くものという先入観がある。それは長い野球の歴史の中で、長距離打者が4番にいることで最も効率よく得点できるという経験から自然とそうなっていったものだろう。アスリートマガジンの「受け継がれる4番打者の系譜」という記事に、「CARP歴代スラッガー列伝」というサブタイトルが付けられているのも、「4番打者=スラッガー」が当たり前、という意識のあらわれではないだろうか(※注1)。

 ちなみにこの記事で取り上げられている「4番打者」は、衣笠祥雄、山本浩二、小早川毅彦、R・アレン、西田真二、江藤智、新井貴浩、A・シーツ、金本知憲、B・エルドレッド、栗原健太、鈴木誠也である。いずれも長打力のあるバッターだ。

 一方の上本はというと、これまでは代走や守備固めの印象が強く、打撃に関してはあまり注目されてこなかった。ホームランもプロ生活11年目で3本(7月28日現在)と、長距離打者というタイプではない。更に「4番打者=大柄な体格」というイメージも抱きがちではあるが、170センチ・73キロの上本は、野球選手としては小柄である。これまでの4番打者のイメージを大きく覆す存在なのだ。

 ではなぜ、上本が4番打者となったのか。今シーズン、4番を務めてきた西川龍馬(西川も、従来の4番のイメージとは少し異なるアベレージヒッターではあるが)が7月12日に負傷離脱して以降、4番の座にはデビッドソンや松山竜平らが日替わりで就いた。特に7月15日、これまた「4番打者」のイメージとは大きく異なるタイプの菊池が、プロ12年目で初の4番に就いた際はファンもざわついた。新井監督はその意図を、「左打者が続くため右打者を挟みたかったこと」「バッターの時もランナーの時も動きが出せること」と語っていた(※注2)。「4番・上本」も、こうした考えの延長線上にある戦略なのだろう。

 新井采配はズバリ的中し、4番・上本は22日には2安打を放つ活躍、その後もカープの連勝に貢献している。よく「4番打者に送りバントをさせるべきか否か」といった議論がされることがあるが、上本の場合はそんな心配も無用である。

 もしかすると今後の上本の活躍で、球界全体の「4番打者」のイメージが大きく覆ることになるのでは……と、今から少し楽しみにしているところだ。

※注1:『広島アスリートマガジン』2022年3月号
※注2:スポニチアネックス・2023年7月15日(https://mainichi.jp/articles/20230715/spp/000/001/133000c)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

オギリマサホ
1976年東京都出身。イラストレーターとして雑誌や書籍等の挿絵を手掛けるかたわら、2018年より文春オンライン「文春野球コラム」でカープ担当となり独自の視点のイラストコラムを発表。著書に『斜め下からカープ論』(文春文庫)がある。