◆製品を作った人の思いを伝える接客

 今の体育社は、「製品を作った人の思いが伝えられる接客」にこだわることで、安売り合戦には参加しない。大野氏には、変わらない信念がある。

 「作った人には思い入れがあり、それを消費者に実際に伝えられるのは僕らだけ」

代表取締役の大野昌志氏

 創業当初はとにかくモノがない時代だ。「店頭に商品を並べた途端に売れていて、例え盗まれても気づけないほどの盛況っぷりだった」。そして時代は流れ、先代社長の時代には「商品を安定させる時代」となり、現在では「モノに溢れて余っていく時代」に突入している。

 そんな今だからこそ、接客の根幹部分を愚直に大切にする姿勢が、お客様とのコミュニケーションを生み、製作者の思いも伝わることで、満足度の高い買い物につながる。そこから好循環ができているように見受けた。

 大野氏は平成26年に代表取締役に就任以来、社員の満足度を上げることにも早くから注力してきた。

 働き方改革を推進しようとしたとき、むしろ反対の声があがった時代もあったが(今となっては考えにくいことだが)、これからの時代を見据えて早期から着手した。

 時代のニーズを読み解く先見の明がある代表が動かす会社は、これからの未来もきっと明るい。

◆体育社が野球に力を入れる理由

 今から30〜40年前にスキー用品が強かった時代、陸上用品が強かった時代などを経て、現在の本店は、売り場が4階まであるうち、3階と4階の2フロアを野球が占めるという力の入れようだ。

4階の壁一面にはグローブがずらりと並んでいる

 もし「広島が野球大国だから」であれば、全国区の大手スポーツ用品店もそうするはずだ。となると、売上利益だけが目的ではないはずだと思い、理由を聞いてみた。

 「野球は主にグラブなどで言えば加工・補修が必要となります。弊社ではその部分までご対応させていただくことで、より商品に付加価値をつけて提供できるところが魅力です」

 お客様との接点を大事にする同社ならではの発想は、大型量販店ではケアしきれない部分だ。お客様のレベルや悩みに徹底的に寄り添い、それを体育社の力で解消すべく加工していく。

 商品を売るのではなく、夢の実現への道筋を売っているのだ。

 今後の展開についてもお伺いしてみたが、企業秘密とのことで聞き出すことはできなかった。何やらすごい構想があるようだ。少年のように目を輝かせて未来に思いを馳せる大野氏の活動にますます今後も目が離せない。