組織論・戦略論 などの視点から、近年のカープの強さ・魅力の秘密を紐解いていく、広島アスリートマガジンwebでしか体感できない講義・『カープ戦略解析室』。案内人は、高校野球の指導者を20年務め、現在は城西大経営学部准教授として教鞭をとるなど多彩な肩書きを持つ高柿健。13回目の今回は、若い力が台頭を続けるカープの「育成力」について考えていく。

 

◆「ホンモノ」を知ることからはじまる

 鑑定士がその目利き力を上げるためには、まず“ホンモノ”を知ることが必要だという。“ニセモノ”を見極めるためには基準となる目線を上げなければならないからだ。この話を聞いた時、三村敏之元監督から聞いたある話を思い出した。

 「若い選手は、早い段階で高いレベルの環境でプレーさせてやらなければならない」

 三村監督は自身の入団1年目、控え選手としてずっと一軍に帯同していた。一軍は二軍に比べて練習量が少ないため、同期の選手に追い抜かれるのではないかと常に心配していた。

 その年のシーズン終了後の秋季キャンプ、三村監督は不思議な体験をすることになった。練習量がはるかに劣っていた自分の方が同期の二軍選手よりも明らかにレベルアップしていたのだ。

 「実際に練習や試合で身体を動かすことはもちろん大事だ。けれども、高いレベルを見て、それを肌で感じながら過ごすことは、もっと大事なことなんだ」

 この気づきが三村監督の後の指導者としての指針の一つとなった。

 大盛穂、羽月隆太郎、中村奨成、正隨優弥、林晃汰、宇草孔基など、2020年のシーズンも多くの若手選手が一軍を経験することになった。

 一軍の高いレベルを自分の目で見て、それを追いかける基準(目標)にすることで、練習の質が変わり、結果が変わる。この時感じた三村監督の成長体験は若手選手を育てる上で実に示唆に富むものである。